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えぇ……なにそれ……酷いな……そんな人が同じ部署にいた日には、まわりの負担がハンパない。
しかも、注意をすれば泣き出すなんて、やりにくいったらありゃしないよ。
茉奈ちゃんが怒るのも無理ないわ。
茉奈ちゃんに同情しながら苦く頷き、僕は猫になりきりながら、足音立てずに更に前へと進んでいった。
ここからじゃあ様子が見えない。
や、見なくても声の感じで揉めレベルは分かるから良いんだけど、でも、……ははは、下世話な話、その問題児が誰なのか気になったんだ。
け、決して野次馬根性だけではないぞ……!
ほら、茉奈ちゃんと同じ部署には杏ちゃんもいるからね。
きっと杏ちゃんも困っているはず、…………ハッ!
もしかして、杏ちゃんが浮いているのは、まだ見ぬ問題児が原因ではないだろうか?
杏ちゃんは優しいから、みんなから反感買ってる問題児にも優しくしちゃうと思うんだ。
その板挟みにあってしまって、部内で浮いているんじゃないかと予想。
ジリリジリリと近づいて、壁に背を当て首だけ伸ばして、あと少しで見える……と思ったその時。
問題児が茉奈ちゃんに、こう言い返した。
「私がいつ有給を取ろうが勝手でしょ? とやかく言われたくないわ。それに、ズル休みしてるみたいな言い方もムカつく。朝起きて体調悪くてお休みしたけど、そのあと調子が良くなったのよ。と言うか……アンタ達キモッ! 人のSNS監視してる暇があるなら仕事しろ。そんなキモイ人達に注意されたら誰でも怖くて泣くわ、”これみよがし” とか言いがかりはやめて」
「な……! なにそれ……!」
茉奈ちゃんの声が怒りで震えだした、…………ついでに僕も震えだす。
問題児はすこぶる強気に反論し、最後の方は含み笑いで言い捨てた。
………………ウソだろ?
ウソだと言ってくれ、だってこの声……この声はさ、
壁伝いに半歩前へ。
壁の切れ目に顔を出し、茉奈ちゃんと、問題児の、2人の姿が目に入る、そこにいたのは。
薄いブルーのワンピース、フリルのついたレースのボレロ。
足元はビーズのついた可愛いサンダル。
肩まで伸びたサラサラ髪はふわっとエアリー、ミルクティーと同じ色。
鋭い目つきで茉奈ちゃんをナナメに見ている……榎本杏ちゃんだったのだ。
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