474人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、杏ちゃん?」
情けない話、僕はかなり動揺していた。
出会ってから3年半、付き合ってからは丸3年。
ずっと一緒にいたんだよ。
春も夏も秋も冬も、同じ季節も3度目で、杏ちゃんはいつだって可愛らしい。
優しくて、ちょっぴりドジで、甘い物が大好きな女の子……の、はずだったのに。
「…………英海は杏のカレシでしょ?」
じゅ、重低音……!
キャンディーボイスはどこ行った……!
動揺に拍車がかかる。
色々言うと噛みそうだから短いワードでレスポンス。
「そ、そうだよ、僕は杏ちゃんのカレシだ」
それを聞いた杏ちゃんは、キッ! と僕を真っすぐに見てこう言った。
「杏はね、杏を1番に考えてくれる人が良いの。いつでもどこでもどんな時でも、たとえ杏が悪くても、それでも守ってくれる人! 英海は違うの? 杏の味方じゃなかったの?」
1番に考えてるよ、ウソじゃない。
「も、もちろん僕は杏ちゃんの味方だよ! でもさっきの話、あれがもし本当なら、杏ちゃんにも悪い所が、」
”あるでしょう?” と続けたかったが無理だった。
それより先に杏ちゃんが、重低音で被せてきたんだ。
ウソだろ?
導火線、こんなに短い子だったの?
「なにそれ! 杏が悪いの? 英海は味方してくれないの? 茉奈の話しか聞いてないのに、杏の話聞いてないのに!」
「待って! 杏ちゃんの話を聞こうと思って、だから僕は、」
「だからなに? 茉奈の前で庇ってくれなかったじゃない! 杏は、杏は、すっごい悲しかったよ!」
フーフーと息を吐き、真っ赤な顔で僕を見る。
杏ちゃんは怒り一色、ただただ僕を責めたんだ。
「杏ちゃん……」
言葉が続かなかった。
正直、どうして良いか分からないよ。
長い時間を共に過ごして、こんな杏ちゃんを見たのは初めてだ。
今まで僕らは喧嘩らしい喧嘩をした事がない。
僕は ”超” がつくほど平和主義だし、杏ちゃんは穏やかで、互いの意見が食い違ってもお互い譲り合ってきた。
一緒にいると心地良くって、優しい気持ちになれるんだ。
だから好きになった、だから……結婚もしたいと思ったのに。
それなのに……どうしちゃったの……?
最初のコメントを投稿しよう!