第四章 霊媒師こぼれ話_エイミーの元カノ

19/27
前へ
/370ページ
次へ
「あ、杏ちゃん?」 情けない話、僕はかなり動揺していた。 出会ってから3年半、付き合ってからは丸3年。 ずっと一緒にいたんだよ。 春も夏も秋も冬も、同じ季節も3度目で、杏ちゃんはいつだって可愛らしい。 優しくて、ちょっぴりドジで、甘い物が大好きな女の子……の、はずだったのに。 「…………英海(ひでみ)は杏のカレシでしょ?」 じゅ、重低音……! キャンディーボイスはどこ行った……! 動揺に拍車がかかる。 色々言うと噛みそうだから短いワードでレスポンス。 「そ、そうだよ、僕は杏ちゃんのカレシだ」 それを聞いた杏ちゃんは、キッ! と僕を真っすぐに見てこう言った。 「杏はね、杏を1番に考えてくれる人が良いの。いつでもどこでもどんな時でも、たとえ杏が悪くても、それでも守ってくれる人! 英海(ひでみ)は違うの? 杏の味方じゃなかったの?」 1番に考えてるよ、ウソじゃない。 「も、もちろん僕は杏ちゃんの味方だよ! でもさっきの話、あれがもし本当なら、杏ちゃんにも悪い所が、」 ”あるでしょう?” と続けたかったが無理だった。 それより先に杏ちゃんが、重低音で被せてきたんだ。 ウソだろ? 導火線、こんなに短い子だったの? 「なにそれ! 杏が悪いの? 英海(ひでみ)は味方してくれないの? 茉奈(まな)の話しか聞いてないのに、杏の話聞いてないのに!」 「待って! 杏ちゃんの話を聞こうと思って、だから僕は、」 「だからなに? 茉奈(まな)の前で庇ってくれなかったじゃない! 杏は、杏は、すっごい悲しかったよ!」 フーフーと息を吐き、真っ赤な顔で僕を見る。 杏ちゃんは怒り一色、ただただ僕を責めたんだ。 「杏ちゃん……」 言葉が続かなかった。 正直、どうして良いか分からないよ。 長い時間を共に過ごして、こんな杏ちゃんを見たのは初めてだ。 今まで僕らは喧嘩らしい喧嘩をした事がない。 僕は ”超” がつくほど平和主義だし、杏ちゃんは穏やかで、互いの意見が食い違ってもお互い譲り合ってきた。 一緒にいると心地良くって、優しい気持ちになれるんだ。 だから好きになった、だから……結婚もしたいと思ったのに。 それなのに……どうしちゃったの……?
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

474人が本棚に入れています
本棚に追加