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「…………そっか、………………、」
茉奈ちゃんは短く言って黙ってしまった。
でも、何度も小さく息を吸い……なんだ?
なにか言いたい事でもあるのかな、でもなにも言ってこない。
五十嵐もおんなじで、黙ったまま、残った刺身をつまんでる。
「急にどうしたの? ……もしかして、榎本さんになんかあった?」
ふと思い浮かんで聞いてみた。
茉奈ちゃんは気持ちの優しいサッパリした子、興味本位でこういう事は聞かない子だよ。
それをわざわざ聞いてくるのは、なにか理由があるんじゃないの?
茉奈ちゃんは何かを言いかけそれをやめ、代わり、スマホを取り出しポチポチ操作。
そこから遅れた数秒後、僕のスマホに茉奈ちゃんからメールが届いた。
えっと……なぜにメール?
今、一緒にいるのに。
不思議に思ってメールの中身を見てみると、たった一行、どこかのサイトのURLが貼りつけてあった。
「これ、なんのURL?」
ポカン顔でそう聞くと、
「〇〇県✕✕市のタウンガイド。街とかお店とか、そういう情報が載ってるサイトだよ。ローカルだから地元の人達くらしか見ないらしいけど」
〇〇県✕✕市……と言えば、榎本さんの実家と同じだ。
「岡村君と別れてすぐ、榎本さん会社辞めたでしょ。あの時『英海と別れたから辞めます!』って……ははは……最後に爆弾落として去ってったから、しばらく噂になったよね。覚えてる?」
ええ、ええ、覚えてますとも。
あの発言で、僕はしばらくヒソヒソされて大変だった。
正直、あんな事を言う子だとは思わなくって、けっこう、いやもう……ガチでショックを受けたんだ。
ま、そうは言っても社内は僕に同情的で、僕を非難する人は誰1人いなかった。
しかも、その翌月からは ”お客様相談センター” に移動になって、それどころじゃなくなったんだよね。
苦い思い出。
結婚しようと決心したのに、プロポーズも出来ないままで終わりを迎えた。
あれから誰とも恋をしてない。
縁がないのもあったけど、少し、怖くなったんだ。
この先、僕が誰かを好きになる……と言うのはないかもしれない。
もしも好きになれるとしたら、猫を被らず裏表のない女性だ。
単純思考のドストレート。
正直で、なに考えてるのかパッと見だけど分かるような、そんな女性に出会いたい(無理だろうな……)。
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