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◆
「じゃあまたな! 今度ウチに遊びに来いよ、岡村ならいつでも大歓迎だ!」
五十嵐が僕の腕をパシパシ叩いてそう言った。
楽しい時間はあっという間でお食事会はこれでお開き。
これからそれぞれ電車に乗って帰るんだけど、別れを惜しんでちょっとばかしの立ち話だ。
あの後……お食事会の後半に出た、榎本さんの話は有耶無耶に終わった。
僕が話題を意図的に変えた事で、茉奈ちゃんがそれ以上話を広げなかったから。
正直助かった。
榎本さんの話、それを笑って出来る程、僕の傷は……癒えてなかったみたいでさ。
今夜それに気づいてしまった。
まぁ……衝撃的な別れだったからねぇ……ははは……だと言うのに。
最後の最後の滑り込み、茉奈ちゃんは僕に向かってこう言ったのだ。
「さっき送ったURL、オウチに帰ったら見てみて。そこに榎本さんが載ってる。たぶんだけど、見た方が岡村君もスッキリすると思うんだ、」
眉をハの字に困ったように笑いつつ、意味ありげな顔をした。
返答に困るな……いつもなら、こんなゴリ押ししないのに。
「ん……時間があったら見てみるよ、……それより、2人共気を付けて帰ってね。僕も気を付ける、また会おう。今夜はすごく楽しかったよ」
曖昧な笑顔と曖昧な回答、今はこれが精一杯だ。
僕達は、最後に大きく手を振り合い、それを持ってお食事会は解散となったのだ。
……
…………
………………
「ただいまぁ」
誰もいない独り暮らしのワンルームに無事帰還。
おなかはいっぱい、食事はしなくてダイジョブだから、迷わずシャワーに直行だ。
熱いお湯でスッキリしたら、寝間着に着替えてリラックス。
いつものルーチン、猫動画をスマホで見ながらジャスミンティーをゴクリと飲んだ。
今夜は楽しかったなぁ。
料理もおいしく個室で落ち着く、またあのお店に集まりたいな、……なんて事を思いつつ、手は、自然と茉奈ちゃんからのメールを表示させていた。
このURL……このサイトに榎本さんが載っていると言っていた、……ん……気になる。
茉奈ちゃんにはああ言ったけど、やっぱりなぁ……少しだけ……見てみようかなぁ。
手にあるスマホの画面を見ながら、指を出したり引っ込めたり……なんだけど、最終的にはポチッとタップでサイトを開いてしまった。
画面が瞬時に切り替わる。
明るいブルーを基調としたトップページ。
✕✕市のタウンガイド、街の情報が満載だ。
地方都市の✕✕市、駅周辺は色んなお店が所狭しと並んでて、オシャレなカフェ、雑貨、レストラン、服に靴に本屋さんも……そんな写真がセンス良く表示されていた。
その中でも……これは月替わりの特集記事だろうか。
”今月のイチオシ!” と題されたそこには…………
【フラワーショップenomoto・代表:榎本杏さんインタビュー】
このタイトルと、そして、昔よりも大人びた……榎本杏ちゃんの笑顔があったんだ。
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