第一章 霊媒師こぼれ話_岡村英海

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◆ 会社を出て電車を乗り継ぎ、瀧澤建設に着いたのは予定通りの21時過ぎ。 大きな敷地に事務所と自宅の2棟があって、僕はまず自宅の方を訪ねていった。 「岡村くーん! よく来てくれたねぇ! 無理言って悪かった! でもよぉ、あの営業はどーーーーーーーしても嫌だったんだ! アイツに頼んだらまた壊されちまう!」 久しぶりの再会に一通り大騒ぎをした後、僕はさっそく事務所の中におじゃました。 瀧澤社長がパチパチ電気をつけてくれると、人がいなくてひっそりとした事務所があらわれたのだが……すごいや! 電話機もファックスもコピー機も、ぜんぶピカピカじゃない! 「わぁ! 懐かしいなぁ! これも、これも、すごくキレイに使ってくださってるんですね!」 嬉しくってそう言うと、瀧澤社長はフフンと威張ってこう言ったんだ。 「あったりめぇだろ! あの頃よぉ、ホント言うとウチの会社危ない時期もあったんだ。火の車ってのはあながち嘘じゃくてよ。だからオフィス機器っていうの? そんなの買うなんざ夢のまた夢だったんだよね。色んな営業が機械買ってくれって来たけどよ、そいつらみんなウチが買えねぇとわかると手の平返してバカにしやがった。岡村君だけだよ。ちゃんとこう、ワープロで作った見積書なんて持ってきてくれたのは」 あはは、ワープロってカワイイな。 「本当は分かってたんだろ? 俺がよ、そんな高いモン買えねぇってよ。それでもあんた、態度変えなかったよな。きちんとした見積書でよ、中見たら、この事務所の事良く考えてくれてるって素人でも分かったよ。……それが嬉しくてなぁ。カミさんと何度も見ながら、ここに書いてある機械、ぜんぶ丸ごと買えるようになろうなって、がむしゃらに頑張ったんだ。それからしばらくして、あんたが営業じゃなくなるって聞いてよ、買うなら今しかねぇ! 岡村君から買わなきゃ意味がねぇ! って……無理してでも買ったんだ」 瀧澤さん……そんな思いで買ってくれたのか……ヤバイ、当時の事を思い出して僕はなんだか泣きそうだ。 「だからな、……ここにある機械はみんな大事なモノなんだ。ただの電話機じゃねぇんだよ。岡村君の見積書があったから頑張れた。この電話機が取り付けられた時、みんなで記念撮影しただろ? あんたも一緒に。その写真と見積書も……ホレ、見てみろ。壁に飾ってあるんだ。アレ見りゃ元気がでるからな。俺とこの会社の宝物だ、」 だ、だめだ……! これ以上、瀧澤社長に喋らせてはいけない。 もう僕、ガチ泣き寸前ですから! 入社したてで右も左も分からなくって、手探りで頑張っていたあの頃が走馬灯のように蘇る。 社長はそんな僕に良くしてくれた。 いろんな事を教えてくれた。 もう本当に感謝しかないんだよ。
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