第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

2/36
前へ
/370ページ
次へ
____S線をご利用くださいまして、     ありがとうございます。     この電車は急行H行きです。     まもなく✕✕、✕✕に到着いたします。     お出口は右側です。 お、次は✕✕駅か。 降りる準備をしなくちゃな。 仕事帰りの電車内。 読んでた本をカバンにしまって、座席の上で背筋を伸ばす。 電車は徐々に速度を落とし、窓の向こうに古びたホームが見えてきた。 さらに減速。 車輪の軋む音がして、車体が小さくガコガコ揺れて、最後は若干前のめりに停車した。 プシュー! 案内通り、右側のドアが開いて乗客達が降りていく。 無表情な人の列にアタシも紛れて、ホームの上に降り立った。 うっわー! ✕✕駅なんて久しぶり! 先月までは毎日ココに来てたのに。 転職してからバタバタしちゃって、遊びにも来れなかった。 みんな元気かな? 新しい子入ったかな? 料理は変わらずマズイかな? よーし、今夜は飲むぞー! 当然徹夜だ! 飲んで飲んで飲みまくってやるっ! あひゃひゃひゃひゃひゃー! なんてコトを考えながら、人の波の一部となって改札を通過した。 ココからは慣れた道だ。 駅を背中に左折して、テクテク5分も歩いて行けば築30年の雑居ビルが建っている。 ビルの前には全部で3台キャスター付きの電飾看板、店の名前がそれぞれ書かれて下品にギラギラ光ってるんだ。 あっひゃー! コレコレコレコレェッ!! このどぎつい色!(濃い紫、濃いローズピンク、濃い赤) この荒々しい文字!(習字のウマイ人が書いたみたいなヤツ) この年季の入りよう!(近くで見ると外装のプラッチックが割れてる) どの看板もセンスを疑う下品さが最高にクールなんだよッ!! あー、やっぱコレ見ると落ち着くな。 アタシのホームグラウンドだわ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

473人が本棚に入れています
本棚に追加