第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

3/36
前へ
/370ページ
次へ
しっかし……置き方雑だな。 3台ともビルの敷地をはみ出しちゃってる。 コレが結構ヤバイんだよね。 見つかると(おもに警察方面の方)怒られる、下手すりゃ出すなと言われちゃう。 「しょーがないなー」 ブツブツ文句を言いながら、アタシは3台、キャスターをゴロゴロ転がし手前に引いて、敷地の中にキレイに納めた。 うん、これでダイジョブ。 そんじゃあ行きますか。 時計を見れば21時を過ぎた頃。 早くもなく遅くもない、ちょうどいい時間だ。 カツンとタイルをヒールで鳴らし、ビルに入ってすぐにある、地下に繋がる階段を降りていく。 狭くて暗くて急勾配、その階段を降りたそこには大きなドアと看板が。 【スナック★曼殊沙華(まんじゅしゃげ)】 アタシはノブに手をかけて、家のドアを開けるみたいに手前に引いた。 カランカランカラン♪ ドアベルの音がして、それと同時に、 「いらっしゃいませー!」 曼殊沙華(まんじゅしゃげ)のスタッフ達の元気な声が重なった、……んだけどさ。 来た客がアタシと分かってみんなの態度がコロッと変わった。 「なんだ弥生か。お客さんかと思ったわ」 派手なドレスとこれでもかの盛り髪で、悪態つくのは曼殊沙華(まんじゅしゃげ)のママだ。 ママはニヤニヤ笑って片眉上げて憎たらしいコトこの上ない。 「なんだじゃねぇよ合ってるわ! 客で正解!」 「あらそう。私はてっきり昼の仕事をクビになって出戻ったのかと思ったわ。え? まだクビになってない? ま、なんでも良いから早く戻ってきなさいよ。とりあえずオハヨ。よく来たわね。弥生、会いたかったわ」 悪態おかわり言いたい放題。 でもママは、アタシにタタタと駆け寄るとギュッと抱きしめ離してくれない。 ちょっと、香水つけすぎ。 バラの匂いに酔っちゃいそうよ、…………ああ、でもキライじゃない。 アタシの好きな匂いだよ。
/370ページ

最初のコメントを投稿しよう!

473人が本棚に入れています
本棚に追加