第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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「弥生! 久しぶり!」 「弥生さぁん! 聞いてよぉ!」 「弥生ちゃん! なに飲む?」 「弥生さん、会いたかったよぉ」 あっという間に女の子達に囲まれた。 ママに負けない派手なドレスと盛り髪と、メイクもバッチリ、ボリュームまつ毛がバサバサいってる夜の蝶達。 「あはは、みんなオハヨ。ひっさしぶりだなぁ! 元気だったか? やっと来れた、アタシもみんなに会いたかったよ。本当はさ、もっと早く来たかったんだ。でも、昼の仕事が覚える事がいっぱいで、夜はすぐに寝ちゃってたんよ。この一か月……ロクに飲めなかった……まぁ、少しは飲んでたけど、あんなのは飲んだうちに入らない! だからその分、今夜は飲む気満々だからヨロシクな!」 アタシが言うと女の子達はキャーキャー言って騒ぎだす。 その後ろではアタシも知ってる常連達が、 「弥生ー! 飲め飲め! 俺達が好きなだけ飲ましたるっ!」 と叫びだし、アタシはアタシで、 「言ったな? おまいら全員スッカラカンにしてやっかんな!」 そう答えると、「スッカラカン……あ、えと、カ、カード使えるよね?」とまぁ、すぐに弱気になっていた。 ま、常連達はアタシのザルっぷりを知ってるからな。 無理もないわ、あひゃひゃひゃひゃ! そんなこんなで久しぶりの曼殊沙華(まんじゅしゃげ)。 挨拶(?)も済み、ママと一緒にボックス席に移動した。 …… ………… スナック曼殊沙華(まんじゅしゃげ)。 アタシはつい先月までこの店で働いていた。 ん……ここはどのくらい勤めたかなぁ……? 確か……2年くらい? ハッキリとは覚えてないけど、そのくらいだと記憶する。 元々はホステスをする気はなかった。 アタシは酒が大好きで、飲みに行くのはライフワークと思ってる。 だからこそ飲み屋勤務は避けていたんだ。 だってさ、酒は楽しく飲みたいだろ? なのにそれを仕事にしたら、どうしたって自分のペースで飲めないじゃんか。 ”好き” を好きのままにしておきたいなら、仕事と絡めちゃダメなんだ……って、思っていたのに気づけば曼殊沙華(ココ)で働くコトになっていた。 その原因というのが…… 「弥生、最初はなに飲む?」 胸元がザックリ開いたタイトなドレスの海千山千、アタシより10才コ年上高島緑子(たかしま みどりこ)曼殊沙華(まんじゅしゃげ)のママにある。 「あー、どうしよっかな。ビールって気分じゃないんだよな。んー、そうんだなぁ……あ、フォアローゼスにするわ。あれならママも好きだろ? 一緒に同じの飲もうぜ」 そう、アタシの一番好きな酒。 フォアローゼスはママに教えてもらった酒だ。 「……あら、弥生ったらホームシック? ママン(・・・)と同じ(もの)を飲みたがるなんて」 「あはは、”ママン” じゃ意味変わってくるじゃん。母親かっつの」 「私はそのつもりよ? 弥生は私の可愛い娘。弥生だけじゃない、スタッフの女の子達も全員ね」 出た、出たよ。 ママはいつもこれを言う。 初めて会った時も、今でもずっとだ。 「そう言えば弥生、アンタの今日のその恰好。随分と地味ねぇ。まぁ、昼に仕事をするんならそれくらいが普通か。なんだか良い所のお嬢さんみたいだわ。とっても似合ってる、」 あ……気づいてくれた。 えへへ、恥ずかしいから言わないけどさ、この格好をママに見せたかったんだ。 だからワザと着替えもしないで来たんだよ。 良い所のお嬢さんか……へへ、そんなワケないけど、髪の色は戻してないけど、でも、でも、なんだかすごく嬉しいわ。 ba7ea38c-c4d3-4c31-988f-b212396d4a6f
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