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「弥生! 久しぶり!」
「弥生さぁん! 聞いてよぉ!」
「弥生ちゃん! なに飲む?」
「弥生さん、会いたかったよぉ」
あっという間に女の子達に囲まれた。
ママに負けない派手なドレスと盛り髪と、メイクもバッチリ、ボリュームまつ毛がバサバサいってる夜の蝶達。
「あはは、みんなオハヨ。ひっさしぶりだなぁ! 元気だったか? やっと来れた、アタシもみんなに会いたかったよ。本当はさ、もっと早く来たかったんだ。でも、昼の仕事が覚える事がいっぱいで、夜はすぐに寝ちゃってたんよ。この一か月……ロクに飲めなかった……まぁ、少しは飲んでたけど、あんなのは飲んだうちに入らない! だからその分、今夜は飲む気満々だからヨロシクな!」
アタシが言うと女の子達はキャーキャー言って騒ぎだす。
その後ろではアタシも知ってる常連達が、
「弥生ー! 飲め飲め! 俺達が好きなだけ飲ましたるっ!」
と叫びだし、アタシはアタシで、
「言ったな? おまいら全員スッカラカンにしてやっかんな!」
そう答えると、「スッカラカン……あ、えと、カ、カード使えるよね?」とまぁ、すぐに弱気になっていた。
ま、常連達はアタシのザルっぷりを知ってるからな。
無理もないわ、あひゃひゃひゃひゃ!
そんなこんなで久しぶりの曼殊沙華。
挨拶(?)も済み、ママと一緒にボックス席に移動した。
……
…………
スナック曼殊沙華。
アタシはつい先月までこの店で働いていた。
ん……ここはどのくらい勤めたかなぁ……?
確か……2年くらい?
ハッキリとは覚えてないけど、そのくらいだと記憶する。
元々はホステスをする気はなかった。
アタシは酒が大好きで、飲みに行くのはライフワークと思ってる。
だからこそ飲み屋勤務は避けていたんだ。
だってさ、酒は楽しく飲みたいだろ?
なのにそれを仕事にしたら、どうしたって自分のペースで飲めないじゃんか。
”好き” を好きのままにしておきたいなら、仕事と絡めちゃダメなんだ……って、思っていたのに気づけば曼殊沙華で働くコトになっていた。
その原因というのが……
「弥生、最初はなに飲む?」
胸元がザックリ開いたタイトなドレスの海千山千、アタシより10才コ年上高島緑子、曼殊沙華のママにある。
「あー、どうしよっかな。ビールって気分じゃないんだよな。んー、そうんだなぁ……あ、フォアローゼスにするわ。あれならママも好きだろ? 一緒に同じの飲もうぜ」
そう、アタシの一番好きな酒。
フォアローゼスはママに教えてもらった酒だ。
「……あら、弥生ったらホームシック? ママンと同じ酒を飲みたがるなんて」
「あはは、”ママン” じゃ意味変わってくるじゃん。母親かっつの」
「私はそのつもりよ? 弥生は私の可愛い娘。弥生だけじゃない、スタッフの女の子達も全員ね」
出た、出たよ。
ママはいつもこれを言う。
初めて会った時も、今でもずっとだ。
「そう言えば弥生、アンタの今日のその恰好。随分と地味ねぇ。まぁ、昼に仕事をするんならそれくらいが普通か。なんだか良い所のお嬢さんみたいだわ。とっても似合ってる、」
あ……気づいてくれた。
えへへ、恥ずかしいから言わないけどさ、この格好をママに見せたかったんだ。
だからワザと着替えもしないで来たんだよ。
良い所のお嬢さんか……へへ、そんなワケないけど、髪の色は戻してないけど、でも、でも、なんだかすごく嬉しいわ。
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