第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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◆ 「桜ちゃん、さっきは強いお酒を飲ませてしまってごめんなさい。前島社長は悪くない、ぜんぶ僕のせいなんだ」 佐藤君は、まずこう言って桜に頭を下げた。 言われた桜は大慌て、”別にあんなの仕事だし!” とか ”無理なら無理で断るし!” とか、スッゲェキレてたクセしてさ、今はぜんぜんそんなじゃない。 店中が見守る中、佐藤クンは躊躇う事なく事情を話した。 桜の気を引きたいばかりの ”テキーラ計画”。 強い酒だし桜の代わりに自分が飲めば、もしかしたら、好感を持ってもらえるんじゃないかと期待した事。 そのテキーラを、おちょことは言え桜が2杯も飲むだなんて思ってもみなかった事。 そのせいで桜が泣いて怒ってしまって大後悔をした事。 途中、前ちゃんが割り込んできて、”テキーラ計画” は自分の案で佐藤君は悪くないと弁護したけど、佐藤君はそれを制して言ったんだ。 「それは違います。社長は親身になってくれただけだ。僕に意気地がないばっかりにこんな事になってしまった。……僕は、この店で初めて桜ちゃんと会った時から好きなんだ。片想いも2年になる。ずっと好きで、……でも、桜ちゃんは僕にとって高嶺の花。こんなに綺麗で可愛らしくて、優しくて気遣いが細やかで、仕事だって一生懸命。本をたくさん読んでいるから、どんな話題にもついていける。見た目だけじゃない、とても頭の良い方だ。…………こんな素敵な女性、僕は今までに会った事がありません」 オイオイオイオイ! エライ惚れようだな! 確かに桜は美人だし、優しいし、気は強いけどイジワルするよな女じゃねぇし、アタシも桜が大好きだ。 佐藤君、見る目あるじゃん。 大正解、こんなに良い子は他にはいねぇよ。 桜は真っ赤になっていた。 俯いて、口を尖らせドレスをコネコネ。 あーあー、いくらなんでもコネすぎだ。 ドレスの裾がすっかりシワになっちまった。 店内は、生きてるヤツらは静まり返り、死んでるヤツらは騒がしかった。 『サトくぅぅぅん! よく言った! もう、オジサン感動!』 『カッコイイよ! これでもし断られても一片の悔いなし!』 『でも出来たらうまくいってほしい! 桜ちゃん、サトクンお勧めよ!』 ユーレーのオッサン達は大騒ぎだった。 うすい髪を振り乱し、あーでもないこーでもないと騒ぎ泣きだ。 スゲェな、この3霊はなんでこんなに佐藤推し? まるでみんな、自分の子供を応援するよな熱いノリだ。 アタシはなんだか気になっちゃって、オッサン達に小さな声で聞いてみたんだ。 「なぁなぁ、あんたら何でそんなに応援するんだよ。もしかして佐藤君の親戚か?」 この質問に3霊は顔を視合わせ少し黙ったその後に、 『『『……ナ、ナイショ!……』』』 短く言って、プイッと顔を背けやがった! ムキー! ナイショってなんだよ! 気になるじゃんかー!
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