第五章 霊媒師こぼれ話_大倉弥生28才の飲んだくれライフ

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カップル(カッポー)誕生の瞬間から数時間。 日付も変わってテッペン(午前0時)なんかとっくに過ぎて、草木も眠る丑三つ時に曼珠沙華はようやく閉店時間を迎えた。 この日の売上はココ数年間で第2位の記録を作ったらしい。 そりゃそうだ。 なんてったって常連達の、 ____弥生ー! 飲め飲め! 俺達が好きなだけ飲ましたるっ! この太っ腹に甘えまくって、飲んで飲んで飲みまくったからな。 フォアローゼスにコニャック ヘネシー、響に山崎、最後はひたすら鬼殺しをたしなんで、宣言通りに常連達をスッカラカンにしてやった。 それに加えて佐藤君と桜の恋のお祝いだもん。 飲めや歌えや大騒ぎでさ、店のボトルもスッカラカンだ。 まったくもって楽しい夜だ。 ちなみに……ここ数年間の売り上げ第1位は、アタシが曼珠沙華を引退した日。 あの夜は予め2倍の酒を仕入れていたけど足りなくなって、途中でさ、3階の熟女スナックに借りにいったんだ。 あはは、つい先月の話だってのにな。 なんだかスッゲェ懐かしい。 この1カ月、生活がガラッと変わって曼殊沙華の2年間が遠い過去に思えてしまう。 …… ………… 常連達は揃いも揃ってカードで決済、順番で処理をして最後の客を見送った。 「酒いっぱい飲ましてくれてありがとな! 気をつけて帰れよ!」 ママとアタシとスタッフ総出で、客を乗せたタクシーが見えなくなるまで手を振った、……ああ、こういうのも懐かしいわ。 アタシはついでに立て看板の電気を切って、端っこに寄せたんだ。 深夜の空気は湿ってて、夜が明けたら雨になるかもしれないな……なんて思っていると、あれ? 道の向こうに佐藤君? さっき帰ったはずだったのに……って、ああアレか、桜を待ってるのか。 そういやぁ、”僕が桜ちゃんを送っていきます” とかなんとか言ってたっけ。 ママもそれに気が付いて、 「桜、今夜はもうあがっていいわ。閉店後の掃除なら弥生が代わりにしてくれるから」 そう言うと、アタシの腕に手を絡ませて、ごくごく自然に歩き出す。 あーあー、困ったママだわ。 アタシはもう曼珠沙華のスタッフじゃねぇし、今夜は客で来てるんだっつの(結局お金使ってないけど)……でも、まぁいいやぁ。 最初からそのつもりだったし、それにさ、腕に絡まるママの手が……なんだかすっごくあったかいんだ。 年は10しか変わらないけど、ママはまるでママン(・・・)だよ。 美人でさ、優しくてさ、娘を大事にしてくれる。 緑子ママがアタシのホントの母親だったら良かったのにな。
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