473人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
カップル誕生の瞬間から数時間。
日付も変わってテッペン(午前0時)なんかとっくに過ぎて、草木も眠る丑三つ時に曼珠沙華はようやく閉店時間を迎えた。
この日の売上はココ数年間で第2位の記録を作ったらしい。
そりゃそうだ。
なんてったって常連達の、
____弥生ー! 飲め飲め! 俺達が好きなだけ飲ましたるっ!
この太っ腹に甘えまくって、飲んで飲んで飲みまくったからな。
フォアローゼスにコニャック ヘネシー、響に山崎、最後はひたすら鬼殺しをたしなんで、宣言通りに常連達をスッカラカンにしてやった。
それに加えて佐藤君と桜の恋のお祝いだもん。
飲めや歌えや大騒ぎでさ、店のボトルもスッカラカンだ。
まったくもって楽しい夜だ。
ちなみに……ここ数年間の売り上げ第1位は、アタシが曼珠沙華を引退した日。
あの夜は予め2倍の酒を仕入れていたけど足りなくなって、途中でさ、3階の熟女スナックに借りにいったんだ。
あはは、つい先月の話だってのにな。
なんだかスッゲェ懐かしい。
この1カ月、生活がガラッと変わって曼殊沙華の2年間が遠い過去に思えてしまう。
……
…………
常連達は揃いも揃ってカードで決済、順番で処理をして最後の客を見送った。
「酒いっぱい飲ましてくれてありがとな! 気をつけて帰れよ!」
ママとアタシとスタッフ総出で、客を乗せたタクシーが見えなくなるまで手を振った、……ああ、こういうのも懐かしいわ。
アタシはついでに立て看板の電気を切って、端っこに寄せたんだ。
深夜の空気は湿ってて、夜が明けたら雨になるかもしれないな……なんて思っていると、あれ? 道の向こうに佐藤君? さっき帰ったはずだったのに……って、ああアレか、桜を待ってるのか。
そういやぁ、”僕が桜ちゃんを送っていきます” とかなんとか言ってたっけ。
ママもそれに気が付いて、
「桜、今夜はもうあがっていいわ。閉店後の掃除なら弥生が代わりにしてくれるから」
そう言うと、アタシの腕に手を絡ませて、ごくごく自然に歩き出す。
あーあー、困ったママだわ。
アタシはもう曼珠沙華のスタッフじゃねぇし、今夜は客で来てるんだっつの(結局お金使ってないけど)……でも、まぁいいやぁ。
最初からそのつもりだったし、それにさ、腕に絡まるママの手が……なんだかすっごくあったかいんだ。
年は10しか変わらないけど、ママはまるでママンだよ。
美人でさ、優しくてさ、娘を大事にしてくれる。
緑子ママがアタシのホントの母親だったら良かったのにな。
最初のコメントを投稿しよう!