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階段をあがり切ると、道の端にタクシー2台が縦に並んで待っていた。
オレンジ色のハザードランプがカッチカッチと点滅してる。
「さぁ、先に乗って帰りなさい。ここで見送ってあげるから」
派手なドレスに毛皮のコートの緑子ママは、まるで夜の女王様だ。
「ママ、今夜はありがとう。スッゲェ楽しかったよ。それとお土産もアリガトな」
____なぁ、また近いうちに来ても良いか?
そう言いたいのに言えなかった。
なんでだろ、言ったって怒られない。
良いと言うに決まってるのに。
「良いのよ。アンタのおかげで今夜はガッポリ儲かったわ。私こそありがとう」
シン……なんとなく会話が途切れ、これでいよいよバイバイかと思ったら、なにか言わなきゃと捲し立てたんだ。
「あ、それから桜! 良かったよな! 佐藤君ってスッゲェ真面目で良いヤツだし、桜もずっと佐藤君のコト好きだったし! 2人が幸せになるの嬉しいわ」
____ああ……この話、さっきもさんざんしたのにさ。
チョットでもバイバイするのを遅らせようとしてるだけ。
そんなアタシに緑子ママは優しく笑い、
「そうね、私も嬉しいわ。でもね、今夜1番嬉しかったのは弥生に会えた事よ。アンタの元気な顔を見れて安心した。昼の仕事頑張ってるようでホッした。喜ばしい事よね、分かってるんだけど……この一か月はやっぱり淋しかったのよ。娘はいつかママンの元から旅立つもの。でもイザ旅立たれると会いたくて会いたくて、心配で心配でたまらないの。だからね、今夜来てくれてすごく嬉しかった。ねぇ弥生……アンタの母親は実家にいる継母じゃないわ、この私よ。だからこれからもちょくちょく顔を見せてちょうだい。それと、何かあったらすぐに連絡してきなさい。分かったわね?」
こう言って、アタシをギュッと抱きしめたんだ。
あったかいなぁ……それとやっぱり香水つけすぎ。
濃厚な薔薇の香りはママの匂い、……大好きな匂いだよ。
この人の優しさ、この人の温もり、ママがいたからアタシは曼殊沙華で働いたんだ。
あっという間の2年だった、でも、アタシにとって宝物の2年間。
タクシーに乗り込むと、ママがアタシに手を振った。
アタシも両手で振り返し、お互いに見えなくなるまで振り合ったんだ。
タクシーが角を曲がって深夜の街を直進してく。
アタシはシートに深く座って目を閉じた。
今夜……来て良かったな。
また行こう、ママに会いに、みんなに会いに____
____って、チョット待て。
せっかく良い気分でいるのにさ。
これは一体どーゆーコトだ?
閉じた目を再び開けて、運ちゃんに気づかれないよう声を殺して聞いたんだ。
「(コソコソ)なぁ、なぁって!(コソコソ)なんでオッサンらがこのタクシーに乗ってんだよ!(コソコソコソ)」
意味がまったく分からねぇ。
佐藤推しの3霊達がちゃっかり同車してるんだ。
アタシの隣に2霊、助手席に1霊だ。
運ちゃんは視えないみたいで鼻歌交じりに運転中(ま、それは良かったけど)。
オッサン達はアタシの問いにパァァァっと顔を輝かせ、ピッタリハモってこう言ったんだ。
『『『決まってるじゃない! これから4人で二次会するよっ!』』』
え!?
なにそれ4人て、アタシもカウントされてんの!?
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