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2. 戦いの日
鏡には童顔の冴えない女が写っている。
ぼんやりした薄い眉と丸い目は垂れ気味で狸を思わせる。白い肌はすぐに赤くなったり青くなったりして自分の内心を映し出す。悠里は自分の顔が好きではなかった。
ため息をついて化粧を始める。
156センチという小柄な身長も手伝って、悠里は幾度となく舐められてきた。化粧をまだあまり覚えていなかった頃は気が弱く見られて、変質者や勘違いをした男に付き纏われることもしょっちゅうだった。
だから悠里は化粧をして自分を作り込む。陶器のように塗り込んだファンデーションで顔色を隠し、輪郭を際立たせたアイメイクは意志を強く見せる。
無表情を決め込むとますます人形めいて見え、途端に変質者に付き纏われることがなくなったし、研究者の世界でも舐めてかかられることはぐっと減った。
28歳という年齢にしては少々厚化粧であることはもちろん承知していたが、悠里がこの世界で自分を守り、戦っていくには、必要な武装だった。
化粧を終えて鏡を見る。大丈夫、鉄仮面の女が写っている。
今日は森林フォーラムだ。悠里にとって初めて後ろめたいことを堂々とやらなければならない日だった。
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