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「……だよ」
ふいに、顔を伏せたまま九条がぽつりと呟いた。
「……なに。なんて?」
その声が消えそうなくらい弱々しかったから、仕方なく隣にしゃがんで顔を近づけた。
九条がもどかしいくらいゆっくり顔を上げる。
切れ長の瞳がかすかに揺れて、それから、意を決したように俺を見つめた。
「……俺が好きなのは、お前だよ」
至近距離で、今度こそハッキリ聞こえた。
「は……?」
弾けたように頭が真っ白。
一瞬、時間も呼吸も止まった気がした。
ーー……「好き」って言った? 今確かに俺のこと好きって。
ドクンドクンと心臓が脈打つ。
睫毛の長い、潤んだその目に吸い込まれそうで、理性もろもろぶっ飛びかけたけど。
……いや。いやいやいや待て。
さっきまであんなに北村さんに傷心だったこいつが。急に俺を好きだなんてありえないだろ……。
すーはー深呼吸して、何とか踏みとどまる。
「あ……のさ。失恋して、ツラい気持ちは俺だって死ぬほど分かるよ。だからって、ヤケでそんなこと言うなよ。九条が虚しくなるだけだろ……」
砂を吐きそうな気持ちで絞り出した言葉は、次の瞬間九条の大声でかき消された。
「ヤケなんかじゃねーし!!」
九条は唇をぷるぷる震わせると、びびるくらい強く俺を睨みつけた。
「ずっと高木だけ。高木しか好きじゃない。なんで気づかないわけ? マジでどんだけ鈍いの」
……え。
……え??
「だ、だって、北村さんが好きだって……」
「『男が好き』だっていったらお前がどんな反応するか試そうと思ったんだよ! いきなり告って引かれたくないから! なのにお前が突っ走って逃げ道塞ぎに来るから引っ込みがつかなくなったんじゃねーか」
くらっと眩暈がする。
思い返せば確かに口ごもってた。目が泳いでた。なんか不自然だった。
「お……、俺のせいかよ!」
「そーだよ。しょうもないウソついたのも、こんな気持ちになるのも全部、お前のせいだよ。引いただろ。引いたって言えよバカっ」
……ぼーぜん。
……じゃあ俺はこいつがとっさについたウソを信じ込んで、空回りしてた……?
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