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俺の心の叫びは、当然こいつには届かない。
湧きあがる負の感情を隠せないまま、俺は九条に詰め寄った。
「ごまかすなよ。今の絶対本気の相談だよな。誰? 相手」
じっと視線を合わせると、九条が焦ったように目を逸らす。分かりやすい奴め。
ただの冗談で済ませることも出来たかもしれない。
だけど、俺の知らないところで、こいつがどこの誰とも分からない輩と付き合い始めるのは耐えられなかった。
「誰でもいいじゃん……」
「よくない。相談受けたからには応援する義務がある」
もっともらしいことを言ってみたが、100%純粋な嫉妬だ。
どこのどいつだよ。絶対に顔見てやる。
俺の剣幕に九条は思いきり目を泳がせたが、観念したのかしぶしぶ口を割った。
「……バイト先の、先輩」
★★★
九条のバイト先は、駅前に新しくできたカフェだ。
土曜の午後の数時間、ウェイターとして働いているのは知っていたけれど、実際店に足を踏み入れるのは初めてだった。
アンティーク風の白木の扉をおそるおそる開けて、足を止めた。
天窓から差し込む明るい日差し。白っぽい木目のテーブルとイス。いたるところにセンス良く置かれた観葉植物。いかにも女が好きそうなナチュラルかつお洒落な空気を醸している。
案の定店の中は女子やカップルでいっぱいで。とても俺みたいな男子高生がふらっと立ち寄る雰囲気じゃなかった。
ガチガチに緊張したまま立ち尽くしていると、すぐにふわふわの髪をした女子店員が近づいて来た。
とんでもなく可愛い。この店の採用基準、間違いなく顔だな。
「いらっしゃいませ~。おひとりさまですか?」
「ハイ……」
窓際の席に通される。
一杯700円するオレンジジュースを頼もうか悶々としていると、テーブルにことりと水の入ったグラスが置かれた。
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