好きって言えない

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「いらっしゃいませ」 見上げると、カフェの制服を着た九条が立っていた。白いシャツにベージュ色の腰丈のエプロンが、すらりとした体に良く似合ってる。 いつもより大人っぽく見えて、正直ドキドキした。 「……オレンジジュース下さい」 「りょーかい。ってか、ほんとに来たんだ。ヒマ人」 憎まれ口を叩きながらも、九条はどことなく嬉しそうだった。 「来ちゃ悪いかよ。……で、どいつ? 顔見るまで帰らないからな」 「お前のそういうとこ、マジで面倒くさい……」 九条は大きなため息をつきながら店の中を見渡すと、あの人、と小さく呟いた。 「うわ」 目線を追いかけて思わず口を開ける。 そこに、文句のつけようのないイケメンがいたからだ。 すっきりとした黒髪短髪は俺と一緒。けれど共通点はそこだけで。 大学生、だろうか。大人っぽく精悍な顔に爽やかなオーラ。背も高いしガタイもいい。 スタッフと何事か話していたイケメンは、俺と九条の視線に気づいたのか、つかつかこちらに歩いてきた。 「(たつき)、どうかした?」 「北村さん。いま友達が来てて」 ……下の名前で呼んでるのかよ。 イケメンは俺のじっとりとした視線も気にすることなく、人懐こい笑みを浮かべた。 「そうなんだ、こんにちは。今日は店も割と空いてるからゆっくりしていってね」 「は、ハイ……」 悔しい。 あまりの爽やかさとそつのなさに、不覚にも俺の方がときめいてしまった。 その後も「北村さん」は、他のスタッフがミスをすると真っ先にフォローし、騒ぐ子供を優しく注意し常に品の良い笑顔を絶やさず、顔も良ければ仕事も出来る男だった。 俺……、勝てる要素ないね? 打ちのめされた気持ちで、運ばれてきたオレンジジュースに口をつけた。 高いだけあって、ちゃんと絞った果物の味がする。ひんやり甘酸っぱくて、美味い。 他にすることもないから、ただ九条のことを見てた。 テキパキと仕事をこなすあいつは、俺の知らない顔をしてる。
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