好きって言えない

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◇◇ 俺と九条は小学校からの付き合いだ。 あいつの家が俺んちの隣に引っ越してきてからの、腐れ縁。 今でこそ女子にクールなイケメンなんて騒がれているが、あの頃の九条は大人しくて引っ込み思案で。皆がわいわい下校する中、ぽつんと道の隅っこを歩いているような奴だった。 親同士はすぐに仲良くなったけれど、俺たちの距離はなかなか縮まらなかった。 俺は他の友達と遊ぶのに忙しかったし、九条はほとんど家から出てこなかったからだ。 母親に頼まれた回覧板を届けに、あいつの家を訪ねた時のこと。 九条のお母さんは留守で、あいつが玄関の土間に背中を丸めてしゃがみこんでた。 「……何してんの?」 あまりにもしょぼくれたその姿に、思わず話しかけていた。 九条がのろのろと顔を上げる。 まともに話したのは、この時が初めてだったかもしれない。 「ハムスターが、かごから逃げちゃったんだ。あと一匹、探してるのにどこにもいなくて……」 蚊の鳴くような声でそう言うと、九条はまたうつむいた。 泣いていたのか目の縁が真っ赤で、白くなるまで噛みしめた唇がぷるぷる震えていた。 同じ男なのに、その顔があまりにいたいけで可愛くて。 俺が何とかしてやらなきゃって、謎の使命感で体が熱くなった。 「しょうがねーなー。一緒にさがしてやるよ」 「ほんと!?」 ヒーローでも見つけたごとく、九条の顔がぱっと輝く。手を差し出すと、すがりつくように握りしめてきた。 「いないなー」 「……もしかしたら家の外に出ちゃったのかな。どうしよう……。猫とかカラスがいるのに」 九条がうなだれた、その時。 「しっ。何か聞こえない?」 「え? 何も……」 確かに俺には聞こえた。ジージーともギューギューともつかない変な音。鳴き声? 「こっちだ」 不安そうに眉を八の字にした九条の手を引っ張ると、音の出所を探して抜き足差し足でキッチンに向かう。
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