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◇
夕方、待ち合わせ場所の駅ビルの入口に行くと、バイトを終えた九条がダッシュでやってきた。
「ごめん! 待った?」
「……待ってない」
「うわ、テンション低っ」
九条が怪訝な顔をして俺を見るけど、お前とイケメンのせいだよと言いたかった。
言わないけど。
合流した後は、駅ビルの靴屋でスニーカー選んだり、本屋でハマってるマンガの新刊探したり。
特別なことは何もしてないけれど、一緒にいるとそれだけで楽しい。
こいつが晴れて「北村さん」と両思いにでもなってしまったら、こんな時間も無くなっていくんだろうな。
想像するだけで、胸がきりきりと絞られるように痛い。
こっちの気持ちはつゆ知らず、雑貨屋に入った九条は次々と売り物の帽子を俺の頭にかぶせてはしゃいでいる。
「あははっ! お前マジで帽子似合わないなー」
「ほっとけ」
こいつのくしゃっとした笑顔を見たら、またどんよりと心が曇ってきた。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰るか」
「……そうだな」
外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
バイト先のカフェの前を通りがかった時だ。ちょうど仕事が終わったらしいイケメンと、ばったり鉢合わせてしまった。
なんてことない黒いシャツとデニムがキマっている。私服姿もかっこいいな。最悪だ。
「樹! お疲れ」
「北村さん、お疲れ様です。今日は早上がりですか?」
「うん、この後予定があってね。……あ、さっきは坂下のフォローありがとうな」
「全然。俺もこの前助けてもらったんで」
二人の和やかな会話を、俺は透明人間になった気持ちで聞いていた。
イケメン相手にニコニコしてる九条を見るのがつらい。一刻も早く帰りたい。
その時。イケメンが何かに気付いたように、俺たちの背後に向かって手を上げた。
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