どうやら記憶退行らしい

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「左様でございます。マリン様はお家が少々そのような状況故に持参金付きで嫁入りが出来ない、という事で婚約者もおらず結婚せずに学院卒業後は王城の文官として働き出しておられました。その矢先の盗難事件。それをテゼログ様はお耳に入れてマリン様に求婚されました」 「へ?」 「元婚約者の家に迷惑をかけられた事の詫び、という訳の分からない名目でマリン様に求婚されたのですが、当然マリン様はお断りなされました」  断られたと聞いて胸が痛む。マリン嬢にちょっと憧れているからな! 「断られた……」 「ええ。ですが、テゼログ様は何を思ったのか、それならば、と子爵家の窮状へ支援する。前当主様にマリン様となら結婚する、と、ご説得され。前当主様はそろそろテゼログ様に結婚してもらいたい、と思っていたので許可を出されて、同時に支援金と交換でマリン様を妻に迎えられました」 「それってマリン嬢からすれば金で買われたも同然……」 「左様でございますね」  なんたる事だ! 僕は憧れの女性を金で買ったような結婚を……? 「そのようなわけで、22歳の年にテゼログ様はマリン様とご結婚され、2年後の24歳で男児が生まれ、27歳で女児がお生まれになられ、29歳で男児がまたお生まれになられました。つまり32歳のテゼログ様は現在、3人のお子様を持つ父親ですね」 「は? ……はぁ⁉︎」  えっ。学生じゃないことも結婚していることも驚きだけど、子どもが3人だって⁉︎ 「ですから、お子が3人いらっしゃいます」 「そ、そうなのか。あ、じゃあマリン嬢と僕は仲の良い夫婦なんだな」  憧れのマリン嬢と仲良しの夫婦。  これってなんか嬉しくないか?  なんだか顔がニヤけてしまう。 「何を仰っているのやら」  物凄く残念そうな表情でモッグが見てくる。なんでそんな表情をされているんだ、僕は。どういうことか尋ねようとした時だった。  ガチャリ  大きくドアノブの音をさせて続いてドアが微かに開いた後、バンっと大きく音をさせてドアが開く。ベッドの上からではそれくらいしか分からない。 「「「おとうさま」」」  直後にベッド脇に男の子2人と女の子がやって来た。この子達が、僕の子……ということ、か? 「おとうさま、ごめんなさいっ。だいじょうぶ?」  年長の男の子が謝ってくる。モッグの話から考えるに、長男という事だろう。僕はどのように子ども達と接していたのか、悩んでいる間にドアの方から「失礼します」と声が聞こえてきた。歩いて来たのはマリン嬢に似た大人の女性。……そう、先程聞かされた妻であるマリン嬢だ。こうして顔を見ても全然記憶にない。でも確かにマリン嬢の面影のある可愛らしい顔立ち。  茶髪に焦げ茶の目をしたマリン嬢は僕の顔を一瞬だけ見ると「お邪魔してすみません」とだけ言って子ども達を部屋から連れ出す。 「お父様はまだ頭が痛いのだからもう少し寝かせてあげましょうね」 「「「はーい」」」  渋々とした表情の子ども達。マリン嬢に言われて退出していく。可愛い我が子のはずなのに、さっぱり思い出せない。 「全く思い出せないなんて、情けない」 「まぁ仕方ないですな。記憶が戻るまでは。……頭の方はいかがですか」 「痛むよ。僕はどうして頭が痛いのかな」 「お子様方と庭で遊んでいらした時に、運悪くお子様方のイタズラに引っかかって背中側から倒れられまして。その際、頭を打たれました。医者が言うにはタンコブが出来る程度の怪我で済んで良かった、と」 「それは良かったのか?」 「大怪我ではないのですから良かったのです」  そりゃそうだ。そう思いながら身体は休息を必要としているようで、僕は眠りに引き込まれていった。
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