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「マリン嬢、そちらの書類に予算を組むように言ってくれ」
「はい。ーー会長、こちらの書類は形式に不備が有るので返却し新たに書き直してもらいます」
「そうか、では頼む」
学生会室は忙しい。僕は親友であるイザクに「人手が足りない。手伝ってくれ」と無理やり引っ張って来られた。そこで僕だけでなく皆の憧れである秀才・マリン嬢を目に留めた。そういえばマリン嬢は学生会役員だっけ。学生会会長である国王陛下の弟、王弟殿下のご子息が直々に彼女にオファーした、と聞いている。凄いな。
「会長! 人手を連れて来ました!」
「イザク! 連れて来るだけなら誰でも出来るぞ!」
副会長がすかさず突っ込む。そりゃそうだ。
「大丈夫です! テゼログは即戦力ですから!」
「イザクがそう言うならば……テゼログと言ったか。数字は得意か?」
学生会役員同士は身分差を気にしていると仕事が滞りがちになるそうで、役員同士だけは名前で呼ぶらしい。僕は役員ではないが、臨時役員になるから、役員扱いみたいだ。
「計算ということでしょうか」
「話が早くて助かる。こちらに有る書類の数字を見て計算が合っているか確認して欲しい」
「それくらいなら大丈夫だと思います」
絶対に出来ます! とか、自信過剰な発言はしない。自信過剰な発言をして失敗したヤツの話は聞いている。詳しくは話せない、と言いながらイザクが簡単に話したのは、自信過剰なヤツの発言を信じて仕事を任せたら出来なくて、危うく行事が一つ消え失せる所だったとか。毎年恒例の行事だから下手をすれば学生会の信用どころか、今季の会長である王弟殿下のご子息の信用問題にも関わって来るようだった、と。
その自信過剰なヤツは教師の口利きだったから学院側を通して教師は口頭注意。ヤツは学生会の臨時役員をクビという処分だったとか。臨時役員とはいえ、学生会役員扱いだと卒業後は王城の文官として活躍する道も有ったはずなのに。学院の学生会は成績優秀者で性格や言動に不可が無い者が任命されるから、学院在籍中に王族が居れば卒業後は王城勤務に推薦されるし、王族が居なくても学院の理事長の推薦を貰える。つまり、そいつは王城の文官の道が閉ざされたわけだ。教師もなんでそんなのを臨時役員に推薦したんだろうなぁ。
そんな事を思いながらも与えられた仕事をこなしていく。ちなみに、終わった書類を最終的にチェックするのがマリン嬢の仕事らしい。これも自信過剰なヤツのやらかしから決まった事とかで。要するにそれまでは、自分の仕事は自分で最後まで責任を持つ、という事で他者は書類チェックもしないし、仕事の進捗度も把握していなかった、らしい。それを皆で反省した結果、マリン嬢が全ての書類チェックと仕事の進捗管理を行なっていると教えてもらった。
そんなわけで出来上がった書類をマリン嬢に見てもらう。
「ありがとうございます。イザクさんが連れて来た事だけは有りますね! テゼログさん、間違い無しです」
このマリン嬢の笑顔が、僕に憧れという気持ちを与えてくれた切っ掛け。それまで秀才という事は知っていたけど、こう言ってはなんだけれどよく見る平凡な髪色と目をした平凡な容姿の令嬢と言えた。婚約者であるキュアヌの方が可愛いと思うし。金髪に鮮やかな緑色の目をして目鼻立ちがくっきりとした整った顔立ちのキュアヌは可愛い。
でも、マリン嬢みたいな明るい笑顔は最近僕には見せてくれていない。だから久しぶりに見る女の子の明るい笑顔にドキッとした。それから何日か臨時役員として学生会の手伝いをしたけど。その後は人数が増えたから人手は大丈夫だ、と臨時役員として呼ばれなくなって。マリン嬢とは偶に会釈して挨拶するくらいだった。ーーもう、あの笑顔は見られないんだなって思った。
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