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(せっかくフードを被っていないのに、全然、顔が分からない……)
ただ、その瞳だけが淡く青く輝いている。
その美しさに、息を呑む。
(ロクザンの素顔を見たい。どんな表情をしているのか、知りたい)
――顔を見せて。
そう口にすることをためらった結果、生まれたのは最上級の賛辞。
「あんたの瞳って星みたいだな。とても、きれいだ」
すっ、と。
トワは無意識に両手をロクザンへ伸ばしていた。
傷だらけの手のひらが、ロクザンの頬に触れる。
ロクザンは拒むこともなく、むしろ、トワの手に自らの手を重ねた。
(生きている人間というのは、こんなに温かなものだったんだ……)
音のなくなった部屋。
トワは、自らの心臓の音だけを聞いていた。
・
数日後。
「よしっ! できたぞ」
トワが快哉を叫んだのには理由があった。
室内に生まれたのは綻び。
結界を解くことに成功したのだ。
(これ以上、ここにいることはできない。あのひとになら殺されてもいいとは思うけれど、たぶん、そんなんじゃない気がする……から)
ロクザンが悲惨な目に遭うのだけは、避けたい。
トワはそう考えていた。
彼が様子を見に来るまでにはまだ時間がある。
トワは、診療所の扉に手をかけた。
(国境そばの診療所って言ってたから、すぐ国へ帰れるはずだ)
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