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彼女が俺を助けに来た時、すぐに分かった。
昨日のあの人だ、と。
そして、運命だと理解した。
この瞬間から、俺は彼女を手放さないと決めた。
紬を最悪の形で傷つけて、それでも俺は出会って間もない彼女を選んだ。
彼女は昨日の行為を過ちだと思っているのかもしれない。
そう想像するだけで怖かった。
それほどまでに俺にとって彼女の存在は貴重だったのだ。
だから、俺は彼女に気が付いていないフリをした。
名前を知りたくて、自分から自己紹介をした。
生まれてはじめての経験だった。
彼女によく思われたくて、余計なことまで話してしまう。
……俺はこんなにも情けない男だったろうか。
俺を訝しがる姿も、その一方で昨夜のことを思い出して恥ずかしがっている姿も、彼女の全部が新鮮で、心がときめく。
彼女は俺の気持ちを信じていないのだろう。
今はそれでも仕方がない。
彼女は俺のことを何一つ知らないのだから。
俺が彼女に救われているなんて、想像すらしていないのだろうから。
ともかく、昨晩は本当によく眠れたんだ。
俺が彼女に惚れた理由なんて、それだけで充分だった。
そうだな。
まずは彼女の身体に教え込もう。
俺がどれほど彼女を愛しているのか、必要としているのかを。
手放さないと決めた。
手放させそうになくてごめん。
謝罪は何倍もの愛にして返そう。
君はもしかしたら嫌がるかもしれないけれど。
彼女に、伊織に嫌われないために、俺は君のことを好きでもなんでもないフリをした。
だから、俺たちが交わしたのは「契約結婚」なのだ。
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