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それからの一週間は正に夢みたいな出来事が続いた。
毎朝、目が覚めると隣には航がいる。
その端正な顔立ちを堪能している間に食事が部屋に運ばれ、私たちはテラスで優雅なブランチを楽しむ。
眼下にはコバルトに輝く海が広がっていた。
あらかたモンテカルロの観光名所を遊び尽くしたあとは、二人きりでぼんやりと海を眺める時間が多かった。
「今日は何をしよう?」
「俺は何でもいい。伊織がしたいことに付き合おう」
「今日もそう言うのね。私一人で決めなきゃいけないのは少し負担だわ」
「ふむ、そうか。なら、今日は俺が君に贈るプレゼントを買いに行きたい。一緒に来てくれるか?」
「センスが悪かったら受け取らないからね」
「俺はNATORIホテルグループの代表だぞ? センスなんてものは生まれた瞬間から有り余るほど持ってるんだよ」
彼の側は自分でも驚くほどに居心地が良かった。
出逢って間もないのに不思議な話だ。
夕闇が世界を彩る頃、私たちは彼の保有するプライベートビーチに来ていた。
美しい夕焼けが海に光を落とす光景はあまりにも幻想的で、このまま世界が滅亡してしまってもおかしくないような気がした。
私たち二人っきりで、辺りには誰の気配もしなくって。
航が私の身体を後ろから抱きしめる。
世界の全てが敵に回っても、彼だけはいつまでも私の味方でいてくれる。
そんな風に思うのも、身体の相性がいいから?
人間っていつの間にか理性を失ってしまったのかしら。
ふふっと笑う私の耳の裏を彼が口付けた。
「何か面白いことでも?」
「いいえ? ただこの世界が美しくて、美し過ぎて、全部が夢なんじゃないかって考えただけよ」
「そうか、それならこの美しさを閉じ込めても問題ないよな?」
彼は後ろから私の顔の前に手を伸ばし、両手を重ねた。
モンテカルロの浜辺が私の視界から消える。
そして、彼が手のひらを離すとそこには深海の藍色から夕陽の橙色までが綺麗にグラデーションされた雫型のガラスがあった。
瞳の大きさほどのそのガラスにはネックレス用のチェーンが付いていて、彼が私の首にチェーンを回す。
「はい、出来た」
こうして、モンテカルロの美しい海が私の胸元にやって来た。
「……ありがとう。綺麗ね」
微笑むと、彼の唇が降りてくる。
とてもロマンチックだった。
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