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その日の夜、航がうちを訪ねてきた。
なし崩しに強引に部屋へ上がった彼は、私を抱き締めた。
彼の声が耳にかかる。
「慰めて、やろうか?」
返事をするよりも先に彼の唇が私の耳に触れた。
彼の手が私の髪を溶かしていく。
見た目のスタイリッシュさに反して、意外と逞しい胸に抱かれていると、世界の理不尽さから守られている気がした。
彼がかなり着痩せするタイプであることを私はよく知っている。
ぽんぽんと優しく背中を叩かれて、幼児に戻ったみたいな安心感に包まれて。
私も腕を彼の身体に回した。
航の香りがするシャツに顔を埋めて、文句を言う。
航が私の味方であると確信しているからこそ、好き勝手に鬱憤を晴らせた。
「ちゃんとヘアセットもお化粧も頑張ったわ」
「そうだな」
「着ていく服や靴もいっぱい悩んだ」
「あぁ、知っている」
「認められていないってことは分かっていたけど、何もあんなあからさまに嫌がらなくても良かったじゃん!」
「……ごめんな」
「航が謝ることではないわ」
「それもそうか」
よしよしと頭を撫でられて、冷静になった私が囁いた。
これでいいのか? 本当に?
二人でいることについて初めて他者からの視線を受けて、分かったことがある。
当初の航を惚れさせるという計画がいつの間にか消えてしまっていたことだ。
今、絆されているのはどう考えても私の方だ。
そもそも、私はこんな風に素直に誰かに甘えられるような性格をしていなかったはずだ。
ーーーーいや、航が甘やかし上手なのがいけないんじゃないか。
私のことを上手に甘やかしてしまうから、ほら。
彼の唇が私の顔中に降り注いでも、何一つ抵抗できないのよ。
抱き合いながら、しばらくの間じっとしていると、いつの間にやら彼のものが主張していることに気づいた。
航の顔を見上げると、彼は恥ずかしいのか顔をぷいっと横に逸らした。
だからこそ、私には彼の耳の裏が赤く染まっていることがはっきりと見えている。
思いもしなかった可愛い反応に、私は何だか楽しくなってきて、わざと身体を強く押し付けてみた。
そう言えば、航は私より二歳年下だったっけ。
たまには私から迫るのもいいかも。
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