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はらりと胸元の布がはだけ、慌てて布を抑えようとした。
だが、私の腕を湊が掴んだのでなす術なく私の胸元が露わになった。
薄いブライダルインナーだけが私の上半身を守ってくれている。
掴まれた腕の痛みと羞恥に涙が滲む。
「これを! 着せるのは! 俺の役目なのに!!」
湊が激昂して、私の首元に顔を埋める。
私は何をされるか分からない恐怖に怯えていた。
だから、思わず助けを求めてしまったのだろう。
「、けて……航、助けて!」
そう叫んだ時だった。
勢いよくブライズルームの扉が開け放たれて、飛び込んできたのは航その人だった。
「おい、何してんだ」
航は私から湊を引き剥がすと、そのまま湊の頬を殴った。
私は膝を抱えて縮こまっているばかり。
幾度かの打撃音と湊の呻く声が聞こえてきたほか、あとは驚くほど静かだった。
航は私にジャケットを被せると、そのまま私をお姫様抱っこして連れ去ってくれた。
いつも私を逃げ出させてくれるのは航だった。
モンテカルロでの幻想がまだ続いているみたい。
私は彼の香りに包まれながら、全身を委ねていた。
ホテルの従業員に指示を出したのだろう。
初夜のために予約していた最上階の部屋に辿り着くまで、誰とも出会わなかった。
みっともない姿を見られずに済んだことにほっとした。
丁寧な動作で私を寝台に寝かせると、彼は私の顔を覗き込んだ。
「何もされていないか?」
こくりと頷くと心底安堵した表情になった。
「はぁぁぁ、良かった」
航が私の頭を撫でる。
何度も、何度も。
まるで無事であることを確認するみたいに。
「心配してくれてありがとう」
「当たり前だ。伊織は俺の奥さんなんだから」
ふふっと笑みが溢れた。
湊と対峙して尚、笑う余裕があるのは航が私の側にいてくれるからに他ならない。
「このまま結婚式は出来そうにないな」
「ごめんなさい」
「伊織が謝ることじゃない。俺が、伊織に負担をかけたくないだけだ」
本当は聞きたいことも沢山あるだろうに、彼はただひたすらに優しかった。
「伊織、ほんの数十分だけここで一人で休めるか?」
航に問われたとき、本当はまだ怖かった。
けれどそれ以上に航の重荷になる方が嫌だった。
だから私は微笑んだ。
「私は大丈夫。迷惑かけてごめんね」
「お前は、ほんっとに」
航は辛そうな顔をした後、私の額にキスを落としてそれから部屋を出て行った。
後に残された私は、瞼を落とした。
今は何も考えたくなかった。
酷く疲れてもいた。
だけどこのまま眠ったら夢を見る。
きっと悪夢を見てしまう。
駄目だと思いながらも、睡魔に勝つことは出来なくて、いつの間にかうとうとと眠りについた。
ーーーー案の定、湊の夢を見た。
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