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四十五
金子の持っていた盾によって土岐の刀は間一髪防がれた。その勢いでそのまま後ろへと仰け反った土岐は刀を手放したと同時に、脇へと手をやり拳銃を抜く。そしてそのまま金子の方へと発砲した。時間にして数秒の出来事に僕は動けないままその並外れた動きを目で追う。
「金子くん」と声を出す間もなかったその状況下で金子は五角形の盾を地面に突き刺し、左手に警棒を持ち替えて銃弾を跳ね返した。そして返しとばかりに右手で仕込み刀を抜き取り、盾の上部平らな面を踏み込んでジャンプした。見上げるような姿勢のまま動けなくなった土岐の首元に金子の渾身の一振りが炸裂する。それをまともに食らった土岐は一瞬にして吹っ飛ばされた。
「不振二刀流奥義、鷹飛び双剣無双」
着地した金子は静かに呼吸を整える。
「金子くん。なんてことを」
不振二刀流を金子が口にしたのは驚いたけれど、それより何より同じ過ちを金子までしてしまうだなんて。もう誰も刀で傷つけるような真似はしてほしくなかったのに。
倒れた土岐はそのまま動かなくなってしまった。
「殺したのか?」と金子に問う。
また容疑者死亡で解決なんて、マスコミから何を言われることやら。これではまた黒岩巌が悪役の汚名を着せられる。
暫くして当殺点への一振り必中で死んだと思っていた土岐がゆっくりと体を起こした。少し朦朧とした様子だが、一命があることに胸を撫で下ろす。
「不振二刀流とは恐れ入ったわい。そうか、そうだったのか君は」
痛がるように首を抑えながら声を嗄らして喋る土岐。頸動脈を思いっきり斬られたと思ったのに、どうやらそうではなかったようだ。金子の持っている脇差を見てもどこにも血は付いていないし、土岐からも血は流れていない。
「これ、偽物の刀なんですよ。三浦さん」
「マジで?」
こちらに刀を投げてきた金子は、すぐにポケットに手を入れ、手錠を取り出す。
「土岐海山、父、剛田鉄心の仇。逮捕する!」
そう金子は大声で叫ぶと、土岐の後ろに回り、そのまま腕を抑えて手錠をかけた。
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