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おみみちゃんのおみみだま
「おみみー。おみみだまつーくろ?」
ブラシを片手に、キャットタワーの上でツンと澄ましている飼い猫のおみみに声を掛ける。
今はまさに季節の変わり目で、夏毛から冬毛へと生え替わる時期だ。おみみは長毛種なので、この時期のブラッシングを怠ると大変なことになる。
グルーミングをしていて抜けた毛を飲み込んで吐いてしまうとか、それだけならまだいい。飲み込んだ毛がお腹の中で詰まってしまったりしたら一大事だ。
おみみは普段、あまりブラッシングをさせてくれないのだけれども、 こういう毛が大量に抜ける時期だとか、あとは毛が絡まって毛玉やもつれができた時なんかはなだめすかしてブラッシングをしている。
俺がおみみにブラシを見せると、おみみは嫌そうに顔を背ける。なので、床に転がっているおみみ色のフェルトボールを拾ってそれをおみみに見せる。
「おみみ、おみみだま作るからブラッシングさせて? ね?」
おみみだまというのは、俺がいまおみみに見せているこのフェルトボールだ。このフェルトボールはおみみの抜け毛を固めて作ったもので、おみみのお気に入りのおもちゃだ。
おみみだまとブラシを交互に見たおみみは、おみみだまとブラシの因果関係に気づいたのか、すっと立ち上がってキャットタワーから降りてきて、俺の足下に座り込んだ。
俺もおみみの側に座って、抜け毛がよく取れるブラシでまずはおみみの背中を撫でる。ひと撫でですごい量の抜け毛が出た。
背中を何度かブラシで撫でていると、もう嫌だとばかりにおみみが体をよじる。それでもブラッシングしないわけにはいかないので、根気強くブラシで撫でていく。
「おみみ、この抜け毛わかる?
これいっぱい取れたらいっぱいおみみだま作れるからな」
たまにブラッシングで抜けた毛とおみみだまを比べてみせると、この抜け毛でおみみだまを作るというのがやはりわかっているようで、すこしだけ大人しくなる。
けれども、しばらくブラシで撫でているとやっぱり嫌そうにおみみが俺の手から抜け出そうとする。その度に、おみみだまと抜け毛を見せて嗅がせて、なだめすかしてブラッシングを続けた。
それを繰り返して、なんとか全身のブラッシングを十分に終わらせた。
「おみみ、もう終わり。ね。良い子でした!」
俺がそう言っておみみの体からブラシを離しておみみの頭を撫でると、不満そうにするりと俺の手をくぐり抜ける。やっぱり、いくらお気に入りのおもちゃのおみみだまを作るためとはいえ、おみみとしてはブラッシングはしかたなくやらせてやっているという感じだったのだろう。
俺から少し離れた所に行ってちょこんと座ってこちらを見ているおみみを気にしながら、俺は抜けた毛をふわふわとさわる。かなりの量の抜け毛が出た。大型の猫であるおみみがもう一匹できたくらいの量の抜け毛だ。
抜け毛をいったんしまおうとキャビネットからビニール袋を出していると、おみみが近寄ってきて、抜け毛を嗅いだり手でちょんちょんとつついたりしている。それから、にゃあ。と一声鳴いた。これは一刻も早く新しいおみみだまを作れと言っているのだろう。
けれども、この抜け毛をそのままおみみだまにすると虫が湧いてしまう。なので、この抜け毛はおみみだまにする前にいったん洗わないといけないのだ。
「ごめんなー、すぐにはおみみだまにはできないんだよ。
だから、今は前に作ったおみみだまでがまんしてくれよ」
俺は先程から手に持っていた、以前作ったおみみだまをおみみの鼻先に持って行く。すると、おみみはそれをくわえてキャットタワーを置いてあるところへと持って行き、かじったり転がしたりして遊びはじめた。
おみみだまはけりぐるみにするには小さいけれども、かといって誤飲するほど小さくは作っていない。それに、かすかにおみみの匂いもするので、おみみとしては安心して遊ぶのに丁度良いのだろう。
おみみがおみみだまで遊んでいる間に、おみみの抜け毛をビニール袋に詰めて、おみみが悪戯しないようにキャビネットの一番大きい引き出しに入れる。それからソファに座り、おみみの抜け毛を洗うのに、いつも頼っている友人の悠希にスマホでメールを送る。次の俺の休日に、悠希の家に行っておみみの抜け毛を洗いに行っていいかどうか訊くためだ。
メールを送って一息ついていると、なにやらシャカシャカと音がする。それを聞いて、スマホをソファの上に置いて足下を見ると、おみみがお気に入りの猫じゃらしをくわえて俺を見上げていた。
「おっ。今度はじゃらしか。いいぞ」
俺はおみみが持って来た猫じゃらしの柄の部分を持って猫じゃらしを振る。すると、おみみはもう老年だというのにもかかわらず、軽やかに飛び回る。
その姿を見て思う。このままずっと健やかでいて欲しいなぁ。
そんな感慨に耽っていると、隣に置いたスマホがメールの着信音を鳴らした。
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