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見覚えのない教室から出て、見覚えのない廊下を歩き、見覚えのない階段を登ると、そのまま見覚えのない屋上へと出た。
強めの風は冷気を俺にぶつけ、全身が身震いする中両腕で自分を抱きしめる。
広々とした屋上の端へ歩き、少し低めの柵に手をかけ外を見渡すが、やはりそこに映る景色も見覚えはなかった。
ここまで来れば、俺は記憶喪失という可能性が高いのだろうが、寝ているだけで人は記憶を失う事などあり得るのだろうか。
そう考え込んでいると、背中に何かが触れたと同時に視界が揺れ、足が地面から離れた感覚に気づき咄嗟に柵につかまる。
体はいつの間にやら外へと投げ出され、見上げるとそこには先程気さくに話しかけていた男子生徒が今度は冷たい眼差しを俺に向けながら立っていた。
「なん……で」
冷気に当てられた柵はまるで氷の様に冷え切り、手の感覚が徐々に失われていく。
「自分のしでかした事を棚に上げて、記憶喪失のフリなんて笑えないよ」
そいつはそう言うと、ポケットからカッターナイフを取り出し、俺の手に勢いよく振り下ろした。
痛みで咄嗟に力が緩み、柵から手が離れる。
ほぼ同時に感じる浮遊感に、自分が落下している事に気付くが、もうこの状況で俺に成す術はない。
あるとすれば、悲鳴を上げる事ぐらいだろうか。
そうこうしているうちに、俺の体は地面に打ち付けられ、視界が一瞬のうちにブラックアウトした。
俺が何をしたって言うんだ。
そう問いかけようにも、もうその願いは叶う事はない。
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