MIR_AI

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「……ゆっくり、そう……目を開けて」  命ぜられるまま、リコはゆっくりと目蓋を開いた。ピンぼけしていた世界は数度瞬きをすれば、その輪郭を、色彩を、明確にした。初めて目に映した人間は、痩せこけた初老の男だった。  リコは知っている。この人物が誰なのか。そして、自分が何者なのか。 「僕が……誰だかわかるかい?」 「はい、あなたは理人(あやと)。高岡理人。私の――息子」 「ああ……」  彼は声にならない声を上げ、顔をくしゃくしゃにして咽び泣いた。リコはそんな彼を抱きしめ、小さな子どもにする様に頭を優しく撫でた。彼女は生まれながらにして理人の母親だった。  それは全て、彼女に埋め込まれたプログラムに書き込まれている〝設定〟だからだ。  彼に関するデータは全てメモリーに保存されている。彼は幼い頃に母、高岡理子を亡くしていた。  失った母親を、彼はアンドロイドとして見事に生まれ変わらせたのである。 *  リコが誕生してから数年が過ぎた頃、世の中は変化を見せていた。
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