限界!

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限界!

ーー今日も終わらない…。 東京は水道橋にあるオフィスの一画。 100人を収容するこのフロアに残っているのは私だけ。 フロアのほとんどは既に消灯しており、自分の真上のライトだけが光っている。 まるでスポットライトのようだ。 時刻は22時30分を回っている。 深夜残業代が発生した。 今日も。 私こと和泉菊花はキャラクターグッズを企画制作する会社で企画営業をしている。 アニメやゲームの版権元にグッズの企画を提案し制作及び販売を行うのが主な仕事だ。 今は秋に開催を予定しているとあるアニメコンテンツのポップアップストアの企画書作成と冬発売予定のキャラクターぬいぐるみの監修作業をしている。 それに並行して再来月の4月に入社する新入社員の研修準備、契約倉庫との契約内容の見直し、版権元との契約書ドラフトチェック、明日の中途面接の職務経歴書の目通し、売上報告会議の資料作成…あ、まだ販売先に委託商品のリスト送ってなかったわ。明日締切だったような… …思い出すんじゃなかった。 今年三十路を迎えるとはいえ、ひと昔前の30歳よりは若いはずの身体も悲鳴を上げている。 はよ休めと。 でも仕事は待ってくれない。 私だってこんな遅くまで残っていたいわけではないのだ。 こんなに残業してるということはそれだけ仕事が遅いと主張しているようなものじゃないか。 しかしそこは言い訳させて欲しい。 他にいないのだ。この仕事をやれる人間が。 私は仕事がデキるタイプではない。 むしろ不器用な方で自分としては恐らく平均的な力量だと思っている。 なのにこんなに仕事が降ってくるには訳がある。 まずは私が所属するキャラクター事業部MDチームのおこぼれマネージャーであること。 マネージャーと言っても現在チームメンバーは自分を含め2人しかいないこと。 2人しかいないのは今年度3人が辞めていったから。 つまり物理的に人がいないのだ! 去年の4月時点でMDチームは当時のマネージャーとメンバー4人の計5名で構成されていた。 しかし6月に突然マネージャーが退職し、それに同調した2人が立て続けに辞めてしまった。 マネージャーの退職理由は『経営陣がクソ過ぎる』だった。 端的でとてもわかりやすい。 ちなみにどういうところがクソかと言うと、実質経営を取り仕切っている取締役が絵に描いたようなクソ野郎で、周りを無能で固めてそいつらにマウントを取っては自尊心を保ち、その無能の仕事の皺寄せが一部の有能な社員に偏るという現象がそれだ。人員を補充しようにも取締役のお眼鏡に叶う(奴隷になり得る)人しか入れようとしないのでまず優秀な人材が新たに入ってくることはない。奇跡的に入社したとしてもこの会社のヤバさに気付きさっさと辞めてしまう。 この負のスパイラルにより真面目に仕事をする社員は地獄を見る。 残された私ともう1人も当然脱出を目論んでいた。しかしタイミングが悪かった。 元マネージャーが辞めると知らされた時、2人で担当していた新規のプロジェクトが始まったばかりで取引先とのキックオフミーティングも終えたところだったのだ。 このプロジェクトが完結してから、という甘い考えを持っていたのがいけなかった。無駄な責任感は捨てるべきだった。 辞めたメンバーにも言われた。 「辞めてしまえば自分の評価なんてわからないじゃない」 しかし私にはどうしてもそれが出来なかった。 そのプロジェクトが私の大好きなゲームの20周年記念イベントだったことが大きい。 自業自得なのは認めよう。 でも3人がほぼ同時に抜けて自動的に年長者の私がマネージャーに据えられ、進行中のプロジェクトが一気に伸し掛かり…そして残った部下がご懐妊だなんて…!!!誰が予想したよ!?? さらに言えば部下の出産予定日は6月で、4月に入社する中途社員に業務を引き継いでから産休に入る予定だったにも関わらず、まさかの切迫早産の恐れありとのことで緊急入院の絶対安静。 つまりチームメンバーは2人でも実質私1人で仕事を回しているのだ。 とにかく今は無事に赤ちゃんが生まれてくることを祈るしかない。 …というわけで長くなったが私が1人でこの業務量を背負う理由がおわかりいただけたであろうか。 あれ?私今年厄年だった? お祓い行くべきだった?? いや、そんな時間ないけどさ!!!
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