ヤバい?

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ヤバい?

斉間との初めての飲み以降やはり斉間には私に対する好意等ではない何かがある気がしてならなかった。 あの時言われた言葉は優しくはあるが甘さを孕んではいなかったからだ。 むしろ決意…そう、何かを決意したかのような力が籠っていた。 それが検討もつかず気になり出すと斉間を目で追うようになった。 それでもやはり斉間に不審なところはなく、いつも通り淡々と仕事をこなしてくれているだけだった。 この日珍しく広報チームの蟹江からランチのお誘いがあった。 打ち合わせや急ぎの仕事がなかったので2人で外のカフェに行くことにした。 「最近鎌田さんがヤバそうなんですよね」 ランチセットのカルボナーラをくるくるしながら蟹江が言った。 「そうなの?あそこそんな業務立て込んでるんだ」 鎌田は新卒でうちの会社に入った3年目の女性で、プロモーション事業部の商品プロモーションチームに所属している。 私たちやその他のチームが作る商品のプロモーションを担当しており、ここもまた人数が足りておらずマネージャーを含むたった3名で回しているギリギリの状況だ。 会社全体に関わる部署なのでこのチームに何かあれば影響は大きい。 蟹江が私をランチに誘った理由は鎌田の様子がおかしいことを伝えるためだったようだ。 「どうやらあのチーム、夏目さんが辞めるみたいなんですよね」 「え!?マジで??夏目さん辞めたらヤバない?」 こんな会話を蟹江と何度しただろう。 今この会社の誰が辞めてもヤバいが夏目さんはガチでヤバい。 夏目さんは商品プロモチームのチーフで鎌田の上司の女性だ。 プロモーションの経験が長く当然いなくなっては困る存在で、さらにどんな急な案件にも笑顔で対応してくれるような人間的にも尊敬出来る人だった。 「来月らしいですよ。理由は…まぁお馴染みの『もう無理』でしょうね。だから今引き継ぎしてるんですけど鎌田さんそもそも相当業務溜まってるのにそこにさらに上乗せされるみたいで、多分ドミノ式に辞めますよ」 「あり得る…鎌田さん絶対処理しきれないでしょ」 「あの子はねぇ…」 蟹江と同じことを考えたのが分かり、お互いに目を合わせ無言で頷いた。 鎌田は言葉を選ばず言ってしまえば『ポンコツオタサーの姫』だ。 可愛くなくはないが性格は明らかに悪い。さらに仕事も出来ない。 商品プロモチームの男性マネージャーである谷川さんからのご寵愛を受け、出来もしない華やかな仕事をやりたいと主張しては結局夏目さんにフォローをしてもらっていた。 そのくせ手柄だけはちゃっかり掻っ攫い何故か夏目さんより評価されていて、他チームの女性陣から嫌われまくっている。 私は一応マネージャーという立場ということもあり谷川さんか夏目さんとやり取りをしているので直接被害はなかったものの、鎌田の「私の仕事なんですかこれ?」等と偉そうに仕事を選んだり、相手が男性か女性かで態度を変えたりするところが嫌いだった。 「ぶっちゃけザマァなんだけど、どうせ谷川さんは庇うんじゃないの?」 谷川さんが鎌田可愛さに他の部署に仕事を押し付けることが考えられる。 あのオッサンならやりかねん。 そして広報チームは商品プロモチームと同じプロモーション事業部なので狙われるに決まっている。 「いやそれが、うちのマネージャーは谷川さんより強いし鎌田さんのこと嫌いだから丁重にお断りしたみたいなんですよ。そもそもうちもそんな余裕ないですし」 広報チームのマネージャーグッジョブ。 心の中でサムズアップした。 「うわ。まあでもそうだよね。じゃあ谷川さんと鎌田さんの2人で回すのか…無理じゃね?」 「だから鎌田さんが潰れるって話ですよ。谷川さん自身が仕事出来ないですからね。だからこそ夏目さんが貴重だったのに」 「相変わらずアホだなホント…」 蟹江と溜め息をつきつつ食後のコーヒーに口をつけた。 なんでうちの会社の上層部は大事にすべき人をいつも間違えるんだろうか。 学校じゃないんだから優先順位はあるだろう。 「鎌田さんと言えばおたくの斉間さん狙ってるみたいですよ」 蟹江から発せられた思いもよらぬ方向の言葉にコーヒーを噴き出しかけた。 「ちょっ…やめてようちの大事な戦力に粉かけるの!」 「鎌田さんストレス溜まってるみたいだからそのうち斉間さんを押し倒しますよ」 ケラケラ蟹江が笑いながら言った。 「笑い事じゃないよ!こっちは辞められないように気を遣ってるのに!」 鎌田はオタサーの姫かつサークルクラッシャーという最強称号を持っている。 商品プロモチームに男性が入るとすぐにオトしにかかり、引っ掛かっても拒んでもその人は地獄を見る。 付き合えば谷川さんからいびられ、断れば変な噂を鎌田に流され会社にいられなくなるのだ。 だから絶対に斉間は死守せねば。 別チームだからと油断していたぜ… てゆーかあの子取引先に彼氏いなかったっけ…? 対鎌田回避作戦を練っていると 「え、斉間さんは辞めないでしょ。和泉さんがいるうちは」 蟹江がさも当然であるかの様に告げたので斉間に言われたことを思い出してドキリとした。 「は…?なんでそんなことわかるの?」 「うーん…なんだろ。なんかそう思ったんですよね」 「なんかて…根拠ないんかい」 「まぁ女の勘ですよ」 女の勘程怖いものはないからな…。 私も女だけど。 その後は蟹江と女子トークという名の愚痴で盛り上がった。 お互い恋愛トークが出てこないのが哀しかった。
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