勘違いだから!

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勘違いだから!

さてこのめんどくさい状況をどうすべきか…。 鎌田は恐らく私からの『手伝おうか?』待ちだと思われる。 そんな事は勿論言うつもりはないが帰るきっかけは欲しい。 このまま無視して帰っちゃダメかな…いや、人としてそれはどうなんだろうか。 頭を悩ませているとカチャッとドアが開いた。 「あれ、どうかしましたか?」 ギャーーー!!斉間ぁ〜〜〜〜!!! このタイミングで来るなよぉおぉぉ…!! 斉間の声に反応して鎌田が顔を上げた。 涙の跡はない。 やっぱ泣いてないんかい。 「え…斉間さん?どうして…?」 鎌田の目がキラキラし出した。 あ、これ『私を心配して戻って来てくれたの?』的解釈をしておられますね。 怖いですね。 「鎌田さん?まだ残ってたんですか?」 「あ、はい…とても通常時間に終わる量じゃなくて…」 エアー涙を拭いながら鎌田がほざいた。 完全に鎌田の視界から私は消えている。 「そうですか。大変ですね。…和泉さん、忘れ物ありましたか?」 「え?和泉さん…?」 私の存在を思い出した鎌田が目を大きく開く。 斉間よ…その言い方だと私と一緒にいたのがバレるだろ… 「あ、うん」 一目散に鎌田から離れ自分の席に向かった。 袖机の引出しから定期入れを発見し「じゃあ…」と立ち去ろうとすると当然のように斉間が後をついてきた。 「え。一緒に帰るんですか」 振り返ると立ち上がった鎌田が信じられないという顔をしている。 「はい、そうですが」 「私を1人残して?2人で?」 「?」 斉間が何かおかしいことでも?と言わんばかりに首をかしげた。 「っ…!私が可哀想だとおもわないんですか!?女の子が1人でこんな時間まで残ってるんですよ!」 「可哀想…大変だと思いますが僕が出来ることはないですよ」 「でもっ私のそばにいるとか励ますとかあるでしょ!?」 いや、いらんやろ応援。 「申し訳ないですが鎌田さんがそういう状況なのは身から出た錆だと思います。普段あれだけ夏目さんに頼っておきながら何の感謝もせず自分だけ定時に帰っていましたよね。労ってもらえないなりの理由が鎌田さんにはあるんだと思いますよ」 「――は…」 鎌田は何も言い返せないまま立ち尽くした。 言い過ぎなような気もしたもののあまりの正論っぷりに私もフォローが出来ない。 以前にも何度か同じようなことがあったが、斉間は言いにくいことをサラッと言うタイプのようだ。 今後軋轢が生まれかねないので一応後で釘を刺しておくか。 「ではお先に失礼します。和泉さん行きましょう」 私の背中に手を添えた斉間がもう一方の手でドアを開けフロアを後にした。 こんなことをされたら付き合っていると勘違いされても仕方ないんじゃないだろうか。 アカン。アカンて。 エレベーターに乗ったところで斉間に私との距離感がおかしいんじゃないかと注意した。 「そうですか?」 斉間が不思議そうな顔で私を見た後、なぜかより距離を詰めてきた。 「どのくらいの距離ならおかしくないですか?」 「へ!?」 ふたりきりのエレベーターの中で壁ドンされんばかりの至近距離で見下され思わず目を逸らした。 これだけ近いと身長差で威圧感を感じてかなんだか緊張してしまう。 そこでちょうどエレベーターが1階に着きホッとして斉間より先に降りた。 「もー相手が相手ならセクハラだよ?これ」 斉間の顔を見ずに気にしていない風を装いながら非難すると 「すみません。じゃあ鎌田さんが僕の腕にしがみついて胸を押し付けてくるのも立派なセクハラになりますね」 「え!?そんなことされたの??」 まさかの告発に自分がされたことなどどうでも良くなってしまった。 何してんのあの子。 でもそれはそれで男的には美味しいんじゃないのかと訊くと斉間が心底嫌そうな顔をした。 「ドン引きですよそんなの。全然嬉しくありません。特に鎌田さんの人となりを知っていたら余計そうなりますよ」 ドン引きとか言われてるよ鎌田。 う〜ん、残念。 「まぁ結局セクハラだどうだの言っても相手によるからねー」 オフィスのビルを出て駅方向へ歩き始める。 鎌田のせいで無駄に疲れた。早く帰りたい。
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