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いい加減にしなさい!
「和泉さんは?」
「え?」
後ろを歩いていた斉間に向き合う。
「さっきは『相手が相手なら』って言ってましたが和泉さんは僕ならOKってことですか?」
「は!?いやいや!そんなこと言ってないよ?」
何を言い出すんだ。
「NGなんですね…」
斉間がわざとらしくしょんぼりした表情を作って俯いた。
「そうも言ってない!私を困らせて面白がってるでしょ!」
「すみません。反応が可愛くて」
ニヤリと笑い斉間が楽しそうに言った。
腹立つな〜〜!!ムギギギギ…
ここで照れたり慌てたりしたら奴の思う壺だ。
無理矢理話を変えよう。
「ねえ、斉間さんて前に私と絡んだことある?面接が初対面だよね?」
「はい、そうですよ。なんでですか?」
「…なんとなく」
そう、なんとなく引っ掛かって質問してみただけだのだが、斉間が嘘をついている感じではない。やはりあの面接が初対面だったのだ。
実は私が気づかないうちに恩を売っていたことはないかと思ったが違うようだ。
じゃあなんで斉間はこんなに私を助けてくれるのだろうか。
私が好きなの?なんて鎌田のように強引に恋愛に結びつける程乙女脳でもない。残念なことに。
最後に彼氏がいたのが確か3年前…3年前!?
転職したとき激務で会う暇もなく別れたんだった。
それから働く以外の気力を失い今に至る…。
そりゃこれだけ年下男子に振り回されるわけだ。
もう考えるのもめんどくさくなり斉間の態度のことは諦めることにした。
真面目に働いてくれればそれでいいや。
…等と思案していると駅の改札に着いた。
「じゃあお疲れ様。また明日」
「家まで送らなくて大丈夫ですか?」
「うん、まだ途中の商店街も明かり付いてる時間だし」
「…わかりました。何かあれば連絡ください」
「心配症だな〜ありがとう。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
改札をくぐりホームに上がって帰りの電車を待つ。
ちょうどドームでの試合が終わったところなのか駅は人が溢れていた。
会社ケータイで明日のスケジュールを確認しようとしてふと手を止める。
気づけば前の上司と同僚2名が辞めてもう1年が過ぎていた。
あの時からの地獄といったら…な、長かった…
斉間がいなかったら本当にアウトだったかもしれない。
元上司は真っ当な人だった。
上司に対する評価としてはどうかとは思うがこの言葉が1番しっくりくる。
真っ当な人だからこそ辞めていったのだろう。
優秀な人から転職していくのは世の常だ。
急に退職が決まりお互い気まずさもあって連絡は取っていないが、風の噂で元気でやっているとは聞いている。他の辞めたメンバーも同様だ。
今は仕事も落ち着いているものの会社のクソっぷりが改善したわけではないので、また逃亡したくなる日が来ないとも限らず安心はできない。
産休に入っていた部下の赤ちゃんはなんとか無事に生まれてきてくれたが、出産報告のときの彼女の子どもの溺愛っぷりからして1年後育休から戻って来るか正直怪しい。
さらに社内のどのチームもギリギリで回しておりヘルプで兼務させられる可能性もあるし、取締役に余裕があるのがバレて売上目標を上げられるかもしれない。
考えれば考えるほどネガティブになってしまう。
このまま平和が続けばいいけど…
…というのが完全なフラグなことにこの時私は気付いていなかった。
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