おや…?

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おや…?

休日は寝るかアニメを観るかゲームをするか漫画を読むかという実に引き籠もりのオタクらしい生活を送っている私だが、この日は取引先に招待されたポップアップストアに訪れるため朝から池袋に足を運んでいた。 元々行く予定はなかったのだが、蟹江にどうしても欲しいアクリルスタンドがあるから買ってきてもらえないかとお願いされ仕方なく可愛い後輩のために重い腰を上げたのだ。 ポップアップストアでは店内の混雑を避けるため店頭で整理券を配布し、時間ごとに入退出の人数を制限していた。私は招待券を貰っていたので脇からスルリと入店し会場を見て回った。蟹江ご所望のアクスタを購入し店を後にする。 少し早いけどお昼を食べて帰ろうかと駅方面に向かいながらスマホでお店を探していると、視界に見たことのある面影を捕らえた。いつもはスルーするところが、なんとなく気になってその先のガラス張りのカフェの店内を覗いてみる。 元上司の駒井さんだった。 駒井さんが辞めて1年経つことを今更ながら思い出しつつ懐かしさがこみ上げてきた。忙しさと気まずさで連絡を取れずにいたので、これを機に挨拶をしようとドアの前まで来たところで駒井さんの向かいに座る人物を認識し目を瞠った。 「え?」 私服姿の斉間がいた。 どういうこと…? 二人は楽しそうに気安い雰囲気で談笑をしている。 ―――後輩?友人?親戚?取引先? 色んな単語が脳内を駆け巡るも目の前の光景がイマイチ理解出来ずただただ立ち尽くした。 私の元上司である駒井さんと私の現部下である斉間。 その二人が知り合いなんて不自然過ぎるほどに近い。どんな関係なのかは不明だが斉間はなぜ私に言わなかったのだろう。面接時とは言わなくとも入社してからは機会はいくらでもあったはず。 駒井さんは私にとっては良い上司だった。 私よりも後に入社し歳は近かったが頼り甲斐があり大抵のことは自由にやらせてくれたし、何よりちゃんと責任を取る人だった。ただその真面目で正義感の強い性格はうちの会社には合わなかった。徐々に御子柴さんのやり方に疑問を抱き始め、それを直訴した辺りから駒井さんの立場が危うくなっていった。 会議ではことあるごとに意味のない叱責を浴びせれるのは日常で、親会社への不都合な説明を強いられたり些細なことから大きなことまで全ての責任を押し付けられていた。 部下であった私から見てもよく耐えていた方だと思う。それでもやはり限界は来るもので、虐げられ始めてから2ヶ月程で駒井さんは退職を決めた。駒井さんを慕っていたメンバー2人は即座に退職の意志を固めたが私はぐずくず迷って結局は残ることにした。今となってはそれが正しかったのか間違っていたのかはわからない。 ただあの時点で辞めていたら少なくとも斉間には出会っていなかったかもしれない。 そう思うも今目にしている二人の姿はその考えを覆しかねないものだった。 仮に駒井さんと斉間の間に何らかの関係があったとして、それ自体は特に問題ではない。 私にそれを告げなかったことが問題なのだ。 どう考えても斉間の行動は怪しいではないか。 ただ『まだ知り合ったばかり』という可能性もゼロではない。 むしろそうであって欲しいと思ってしまう。 このままカフェに入店して「偶然ですねー!」と声を掛けてもいいはずなのに足が動かない。 ポンッ 握ったケータイのメッセージ受信音で我に返る。 どれくらいその場に立ち尽くしていたのだろう。 ここで考えていても答えは出ない。 地面に貼り付いていた足を何とか持ち上げ駅に向かって踏み出した。
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