なんで!?

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なんで!?

次の日は朝から会議があったおかげであまり斉間と顔を合わせることなく過ごすことが出来た。 会議の中身は空っぽで考えてしまうのは斉間のことばかりだったけど。 ―――どうして言ってくれなかったの? 本人に訊けばいいことをいつまでもグジグジと頭の中で捏ねくり回している。 ダメだ。考えても答えは出ない。仕事に支障が出る前に切り替えなくては。 会議が終わり席に着くと待ってましたと斉間が話しかけてきた。 「和泉さん、今よろしいですか?」 「あ、うん。何?」 「下村さんからメール来てたんですけど例の件やっぱり発売日を変更したいそうで…」 「……」 言われていることは理解出来るのに上手く返事が出来ない。不自然にならない程度に相槌を打ち、当たり障りのない指示を出した。 「ではそのようにお戻しします」 「宜しくお願いします」 「…」 話が終わりすぐさまノートPCを開き仕事に戻ろうとするが、隣からの視線を感じ落ち着かない。 斉間に見られている。不審がられているのは間違いない。そう分かっていても気付かないふりをしてやり過ごすことにした。 そのうち根負けした斉間が自分のPCに向き合って仕事を再開する。ホッとして目の前の仕事に集中しようと切り替えた。 昼休み明け、販売先の担当者から検品中に不良品が見つかったので良品と交換したいという連絡が入った。 明日発売のものなので急いで不良代替品を探しに 在庫部屋に向かう。入荷のとき立ち会えなかったのでどこにあるか分からず困っているとドアがノックされた。 なんとなく嫌な予感がする。 すぐに目当ての商品を掴み取り出ていかねばとノックを無視し慌てて段ボールを開けて漁る。 悪い予感の元凶斉間が入ってきた。 やっぱり… 「お疲れ様です。何か探しもの?」 「はい、来月発売商品の証紙を回収しに」 「証紙ならその箱に入ってるよ」 「…ありがとうございます」 この空気はマズい。早く探し出さないと…!どこだ!? 「和泉さんは何を探してるんですか?」 「あ、あー…明日発売の缶バッジに不良出てたみたいでその代替品探し」 「ああ、『あねぼく』のですか?僕も探します」 「いいよ、忙しいでしょ?自分で探すから大丈夫」 「忙しいを理由に人の手伝いが出来ない程追い詰められていません」 うっ…!斉間の声のトーンの低さが胸に突き刺さる。答えずにいると斉間が無言で缶バッジの捜索を始めた。 「…和泉さん何があったんですか?」 何かがあったことを断定で訊いてくる。絶対タイミング見計らってたな。 「別に何もないけど」 「嘘つくの下手なんだから諦めたほうがいいですよ」 「なっ!?失礼じゃない?プライベートのことだから言う必要ないだけだし!」 「はー…やっぱり何かあったんじゃないですか。僕に出来ることはありませんか?」 イッラーーーーー!!! なんかムカつく!年下のくせに自分が助ける側だと思ってるのもムカつくし、そもそもお前のせいだっつーのにしれっとしてるのもムカつくし、とにかく今は斉間が何を言ってもムカつく!!! 「ないです!ちょっと考え事したいから一人で探すわ。斉間さんは戻っていいよ」 「だからそういうとこだって言ってるじゃないですか!」 「何よそういうところって!」 「一人で抱え込むなってことですよ!」 頭の先から血が一気に下がるような感覚に陥った。 何を言ってるんだコイツは。何も言ってくれなかったのはお前じゃないか。どんな理由があるか知らないけどそれは抱え込んでるとは言わないのか? 「…それをあなただけには言われたくない」 「僕には…?」 斉間が眉間にシワを寄せ怪訝そうな顔をした。 その表情を見て自分が放った言葉のマズさに気付く。ハッとして外に出ようとドアノブに手をかけたところで後ろからドアを押さえつける手に閉じ込められた。 「逃げないでください」 冷たい声が頭の上から降ってくる。私は斉間に背を向けたまま口を噤んだ。 「僕に気に入らないことがあるなら言ってください」 「…別にない」 「はー…『ある』って顔に書いてあるじゃないですか。そんなに僕が信用出来ませんか?少なくとも僕は和泉さんの部下であって味方です」 「…っ!じゃあなんで駒井さんのこと言ってくれなかったの!?」 遂に言ってしまった。味方って…どの口が言うのか。 「駒井さんのこと…?駒井さんにこの会社を紹介されたことですか?」 あまりにあっさり認めたことに驚き振り向くと、斉間の不思議そうな目が私を覗き込んでいた。 「確かに駒井さんに紹介されたことは事実ですけど和泉さんに言う必要ありましたか?」 「必要はないかもだけど言わないのも不自然じゃない」 「僕が何か企んでいると?」 「そこまでは言わないけど…」 「じゃあ何をそんなに気にしているんですか?」 そんなの私もわかんないよ!! …なんて叫びそうになるのを必死に押し込めてゆっくり息を吐く。 「…ゴメン。ちょっとマジで急いでるからどいてくれる?缶バッジどこに仕舞ったのか管理部の人に聞いてくる」 「…すみません」 斉間が素直にドアを押さえていた手を下ろした。そうだ。仕事をしなければ。こんな諍い時間の無駄じゃないか。 斉間が引き下がってくれたことに安堵してドアを開けて部屋の外に出る。 「僕じゃまだ頼りないんですね…」 「え?」 「なんでもないです。僕は段ボール整理してから行きます」 ピシャリと言い切られ眼の前でドアが閉まった。 なんなのよ… 斉間の表情は傷ついたというよりはガッカリしていたという表現の方がしっくりくるものだった。 私が悪いの?気にしすぎってこと? 結局斉間からは納得のいく答えは聞き出せなかった。そもそも本人に隠していたという意識がないのだから答えもクソもないのだけど。 …もう仕事をしてくれるならどうでもいいや。 考えている時間が勿体無いことにようやく気づき、小走りで管理部の島へと向かった。
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