さてどうする…?

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さてどうする…?

前後の会話が不明な以上は正確な判断は出来ないが、駒井さんの言葉だけを取り上げれば鎌田が斉間を『スパイ』と思い込んでしまうのも分からなくもない。 これはいよいよ斉間本人に聞くべきだろうか。 いや、鎌田の言うことだ。簡単に信用は出来ない。信憑性の低い疑いをぶつけて気まずくなるなんてアホらしい。 「はぁ?ホント頭沸いてんのね。それだけでスパイとは断定出来ないじゃん。思い込み激しすぎでしょ。そんなことよりアンタ辞めてどんだけこっちが迷惑被ってると思ってんの???」 「やっぱり私がいないと大変なんじゃないですか。戻って来て欲しいならそう言えばいいのに」 「話通じねえ!!バカなの??」 私が思案にふけっている中、蟹江と鎌田が一生噛み合わなそうな言い争いをしていた。そんな二人を無視し鎌田が聞いたという会話を振り返る。 『準備しておけ』『例の情報』 鎌田の仮説を採用すると、駒井さんの設立する会社に斉間は合流するつもりであり、うちの会社を退職する準備を進め『例の情報』を渡す手筈になっている、と。 斉間は入社して1年も経っていない。転職するのに何年所属していればいいということもないが、斉間に限ってそんなことをするとは考えづらい。 いや、斉間とはそれこそ数ヶ月の付き合いなわけで、私が彼の人となりを理解していなかっただけなのかもしれないとも言える。字面だけを見れば鎌田説もあながち間違いでもないのではないか。 でも何だろう。何か引っ掛かる。 斉間は何かを隠している。というか言えないことがあるのはわかる。それがこの2つのキーワードに関わっているはずだ。 「だから!」 蟹江のイライラが頂点に達しさらに声を荒らげたことでようやく今の状況を思い出した。これ以上はお店に迷惑が掛かってしまう。 「蟹江さんもういいよ。時間の無駄だから出て飲み直そう」 「なんで私達が出るんですか。コイツを追い出しましょうよ」 蟹江を落ち着かせようと提案するも、ごもっともな反論が返ってきた。 「普通に考えたらそうだけどこの子いつまでも粘着してくるよ」 「なんかわかんないけど馬鹿にしてます?」 仰る通りでハッキリと馬鹿にしていたのだが一応気づいてくれたようだ。それでもギャーギャーと絡んでくるので諦めて蟹江と別の店に移動することにした。さすがの鎌田も追いかけてはこなかったが最後まで陰謀論を展開していてうんざりした。寂しいのか…? 「和泉さんあの女の言ってたことどう思います?」 店を後にし暫く歩いていると蟹江が問いかけてきた。 「どうって…とりあえずなんか突拍子もない感じで何言ってんだろうとしか…」 「ですよね。あれ思うんですけど、誰かが言ったことを鵜呑みにしてそのまま言ってるだけじゃないですかね」 「有り得る」 鎌田は何かをヒントに自分で考えて結論を出すことが出来ないタイプだ。そんな鎌田があんなベラベラと推論を展開出来るとは思えない。鎌田に吹き込んだ誰かがいると考えるのが自然だろう。鎌田と一緒にその場に居合わせたか、鎌田から聞いた話を脚色したか。いずれにせよ誰かがいる。 そして人間スピーカーの鎌田にわざわざ教唆するということは、周りに吹聴させることが目的なはずだ。果たしてそれを実行して得をする人が身近にいるだろうか。 と、そこまで考えて自分も鎌田の陰謀論に染まって来ていることに気づいた。そんな複雑に考えなければいけない話だろうか。もう考えるのも面倒になってきた。斉間本人に聞いてもどうせはぐらかされるだろうし、ゴチャゴチャ考えを巡らせたところで何も変わらない。『年明け』になればきっと全て解ることだ。 「思い当たる人はいないけどそのうち判明するでしょ。鎌田さんの言う事をいちいち真に受けるのも馬鹿らしいしとっとと飲んで溜まったもの吐き出そ」 「確かに。私近くに良いビストロ知ってますよ。そこ行きません?」 「いいね〜私泡飲むわ」 「折角の一杯目台無しにされたから飛ばしちゃいましょう!」 ビストロに直行し浴びる程飲み、次の日は予想通り二日酔いで苦しんだ。
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