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帰りたい!
斉間が入社して1週間。
さすが即戦力。順調に仕事を覚えてくれている。
今日は社外の人との打ち合わせで紹介も出来た。
現在時刻21時。
今日も私が最後の一人だ。
大丈夫。この調子で斉間に仕事を振り、4月に中途が入れば負担が減りいつか早く帰れるようになるはず。
プライベートに何かあるわけでもないけど健康的な生活は送りたい。
今だけだ。
そう自分に言い聞かせながら片っ端から仕事を処理していく。
ピ。カチャ。
「?」
ドアが開く音に振り返る。
「和泉さんまだ残ってらっしゃるんですか?」
「え?斉間さんどうして?」
既に退社していた斉間が会社に戻ってきたようだ。
「ちょっと忘れ物をしてしまって」
「ああ、明日取引先直行だからですか?」
「はい、打ち合わせで必要だったので」
「言ってくだされば私が持って行ったのに…」
「そんな、申し訳ないですよ。それにこの時間まで残ってらっしゃるかわからなかったし」
自分の机の書類ホルダーから資料を取り出しながら斉間が言った。
「でも私明日朝商品サンプルを取りに出社してから行くつもりでしたよ。商談で使うサンプルを家に持って帰りたくないので」
商品サンプルは各アイテム1個ずつしかなく、持ち帰って破損するなど何かあった時困る。
「それを僕に指示してくださいよ」
「斉間さんは遠回りになるじゃないですか。会社はうちと取引先との間にあるから私はそんなに負担じゃないです」
「………それなら…ありがとうございます」
なんか溜めてから言ったな。
私そんな変なこと言ったかしらん。
「で、今は何をされてるんですか?」
「ああ、これは来月入社の中途の方のマニュアル作ってるんです」
「僕がいただいたものとは違いますね。入社までまだ時間あると思いますけど今必要なんですか?」
私のノートPCを覗きながら斉間が尋ねてきた。
「これ入院中の部下のやってたやつなので一応本人にも確認してもらいたいんですけど、いつ出産になるかわからないから早めに渡したいんですよ。あと彼女絶対安静で暇すぎて死にそうらしいので今のうちにって」
「なるほど。僕に出来ることはありますか?」
「うーん…マニュアル作りだからさすがに私しか出来ないですかね」
ホント真面目だな…。新卒の子みたい。
こんなこと言ってくれる人がうちの会社にはもういないので調子が狂う。
断る私が気まずいじゃん。
「…じゃあ僕も明日の朝やろうと思ってた資料の見直しします」
「え?なんで?早く帰ってください」
「和泉さんが帰るまでやります。それなら和泉さんも早く帰ろうとしてくれるでしょう?」
そう言うと斉間はこれ以上は有無を言わさないというように黙ってパソコンを立ち上げてしまった。
こうなると早く仕事を終わらせた方が得策のようだ。
植物系男子にも結構強引なところもあるんだな。
急いで作業を再開する。
「あと和泉さん」
「はい?」
「もうタメ口でいいですよ。気を遣いすぎです」
「…へ?」
思いもよらぬ要望に狼狽える。
相手が年下とはいえある程度時間を過ごすまでは敬語でいるつもりだったんだけど…。
「距離置かれてるみたいでこっちは寂しいですよ」
「あ、そういうことなら…うん、気軽に話すようにするね。そんなこと言わせてゴメン」
「だから気を遣いすぎですよ。こちらこそ生意気言ってすみません」
「いや、えっと、ありがとう。言ってくれて助かった」
「はい」
これまでは大人しそうな印象だったのにハッキリ言うタイプでもあるとわかり少し驚いた。
人は見た目によらないもんだなぁと感心しつつ急いで仕事を終わらせた。
なんやかんや言って早く帰りたいしね!
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