現実を置いて駆け出す想い

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「でも、どうしてここに?」 直くんは、少し腕を緩めると、私の頭を撫でながら、尋ねる。 「あのね、やっぱり直くんに会いたくて、会社を早退したの。でもね、バスには間に合わなくて……」 私は、ことの経緯を説明する。 「だから、そのまま東京駅に移動して新幹線に乗ったの。でね、電車を乗り継いでここまで来ちゃった」 直くんちは、新幹線の駅からは遠いから、バス1本で帰る方が楽だって言ってたのは覚えてる。 新幹線を使えば3時間半、バスなら4時間半。 でも、乗り継ぎがめんどくさい上に、料金は倍かかるから、いつもバスで帰るんだって。 だから、私は、直くんを捕まえるため、そのめんどくさくてお金がかかる手段で先回りしたの。 すると、直くんは私の頭上でクスクスと笑い始めた。 「優花のそういうとこ、好き」 えっ? 「好き」の一言が嬉しくて、私は、直くんを見上げる。 「すぐに電話すれば、バスに乗らなかったし、途中で引き返すこともできたのに」 あっ…… 言われてみれば…… 別れてから、電話したくてもできなくて、ずっと我慢してたから、電話の存在を忘れてた。 「でも、来てくれてありがとう。もう、一生離さない。ずっと一緒だからな」 そう言って、直くんは私の唇に温もりを落とした。 「唇まで冷たいじゃないか」 唇をわずかに離して囁くと、直くんは再び私の唇に触れる。 今度は深く…… その時、直くんの胸元が突然、振動した。 電話…… そう言いたいのに、直くんは唇を離してくれない。 しばらくすると、その振動も収まった。 かと思ったら、再び、振動し始める。 直くんは、諦めたように私を解放して、コートの下から、スマホを取り出す。 「妹だ」 私にそう告げると、直くんは通話ボタンを押した。 「もしもし」 すると、けたたましく叫ぶ女性の声が私のところまで聞こえた。 「お兄ちゃん、今どこ!? 8時50分に着くんじゃなかったの!?」 直くんは、ふぅっとため息を一つ着くと、大丈夫…と言うように、私の頭を撫でた。 「もう着いてるよ。今から、そっちに行くから」 そう言って一方的に電話を切ってしまった。 「迎えに来た妹がしびれを切らしてる。行こう」 直くんは、促すように私の肩を抱くと、歩き始める。 えっ、妹さん? もしかして、今、ここで紹介されちゃったりするの? 戸惑う私には構うことなく、直くんは歩いていく。
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