待ってて

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待ってて

 久しぶりだったので少し緊張しながらその扉を開ける。 「まだいる?」 「ん、んん」  微かに声がしたのはベッドを囲むカーテンの更に奥、微かな香りで確信をもつ。 「またコーヒー飲んでるの?」 「正解、一緒に飲む?」 「うーん、うん、飲む」  少し迷った後に頷けば、驚きつつも嬉しそうにカップに注いでくれる。  私がここでコーヒーを飲むのは初めての事だからだろう。 「どういう風の吹き回し?」  お待たせ、と言いながらカップを置く。 「さぁね、当ててみてよ」 「最後だから?」  その言葉を聞いてギュッと胸が締め付けられる。  貴女の口から聞きたくなかった。 「最後にはしない」  したくない。 「明日卒業したら海外に行っちゃうのに?」 「すぐに帰ってくるよ」 「4年? 6年? 10年?」 「わからない」 「そんなの、すぐって言わないのよ」 「待っててくれないの?」  呆れたように見つめられ。 「おばあちゃんになっちゃうじゃない」  ため息とともに呟いて、視線を窓の外へ逸らされる。  保健室の窓からは校庭がよく見える。  今はもう、誰の姿もない。 「期待せずに待ってるわ」 「なにそれ」  なんだかモヤモヤする。  気持ちが声音に伝わったのか、不思議そうにこちらを向く。 「期待してよ、これでも将来有望って言われるんだから」 「……無理よ、あなたはこれから輝かしい未来があるの、すぐに忘れちゃうでしょ、期待するだけ無駄よ」 「忘れない」  忘れるわけがない、この場所も貴女のことも。 「そう思ってくれるだけで嬉しいわ、でもきっと忘れてしまうの」  どうしてこの気持ちが伝わらないのだろう。 「だったら忘れられないようにすればいい」  私は貴女に口付けをする。 「愛してます、必ず迎えに来るから待ってて、先生」
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