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「だから!あんな修羅場を見せつけた癖に浮気じゃない、ってすがりつかれても信用なんか出来るわけないでしょ!?」
部屋に響き渡る声。
きっと私たちがいるマンションの住人、そこを通りすがる人達は皆こちらを向いているだろう。
「ち、違うんだ、本当に、俺は日和しか見てないよ…」
私と反対に蚊が耳元で飛んでいるような声で話す"元"恋人。
その横には元恋人の手にすがりついた女がこちらをちらっと覗いている。
なんて子供らしいやり方なんだろうか。
「あー、もういいその話は何回も聞いた。
さようなら!その女と仲良く末永く付き合っとけば?」
喧嘩とはいえさすがに周りの目は気になる。
このまま続けていればいずれ近所迷惑となり警察も呼ばれることだろう、そうなれば厄介だ。
元恋人はまだ何か言っているが痺れを切らした私は止まる気にもならない。
「和くん!大丈夫…?あんな人と付き合ってたの?大変だね……萌絵が癒してあげるから」
あの女はモエと言うらしい、全く興味のない事を覚えてしまった。
「行こう、鈴ちゃん」
「え、え?でもあの人床に膝ついて泣いてるよ…?」
「いいんだって!パンケーキ食べに行こうよ」
「ひよちゃんやっぱり怖ぁ…」
そんなことを言ってるのは私の友達。いや、親友の鈴だ。
いつも私のことをひよちゃんひよちゃん、と呼び、可愛げのある彼女は男子からの評判も高いことだろう。
そんな彼女には嘘ひとついた事はないしつけるわけもない。
いつも彼女にはお世話になっているが今回に限っては彼女を喧嘩の場に連れてきてしまっただけだったのでさすがに何か奢ろうと思い近くのパンケーキ屋に足を運ぶ。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
親切そうな店員さんが声をかけてくれたが私の怒りは収まっていないため手で2、と出しズカズカと歩き席に着く。
「ひよちゃん、こんなオシャレなカフェ屋で聞くのもあれなんだけど……。
どうしてああなったの?」
申し訳なさそうに言う鈴ちゃんは本当にお人好しな人だ。
しかし私はそんな性格も持ち合わせておらず、全てを話す。
「昔からアイツ、コソコソしててさ、
なんか隠してんのかなー、とは思ってたんだけどそんな直球に浮気?とか聞けないからほっといたんだけど、
そんな奴にカマをかけようと思って今日鈴ちゃんと大学終わって家で遊ぶんだーって言えば大袈裟に驚くしいつもなら何も言わないのに今日に限って拒否してきてさ、
怪しかったから家に行かないフリして入ってみたら他の女とイチャイチャしてたって訳。」
「そ、そうなんだ…酷いね」
「でももう未練とかちょっともないからいーの。数日はお母さんのところで過ごすわ。
なんか前にもお母さんから家の手伝いしろーとかの電話来てたし。」
「そっか、家近かったんだよね」
「そうそう、近くていいこともあるけどそれと引き換えに嫌な事もあるんだよねぇ……。
新しい恋探しますか」
「切り替わり早~。」
それからはたわいもない話をしてカフェを出る。
「じゃあね、ひよちゃん!また今度遊びに行こーね!」
「うん!約束!」
家に帰る分かれ道で鈴ちゃんと手を振る。
「あ、いたいた。
楓ちゃん!」
よし、今日は張り切って掃除でもするか……
振り返るとそこには同じ年くらいの男が立っていた。
「楓ちゃん探したよ。こんなところにいたとは……
ほら、暗くなるから早く帰ろ?」
カエデ?誰なんだろう。きっと人間違いされたんだろう
「すいません、私カエデじゃないです」
すると男性は
「何言ってるの。もしかしてお昼からお酒飲んだの?もう…」
はい。と言って男性は私に背中を向ける。
人間違いされた上に謝りもしないままとは、さすがに私もイライラしてきて、
「本当に人間違いです!」
と言うと
さっきまで笑顔だった男性は急に血相を変え、
「なんでそんな事言うの、君は楓なんだよ」
怖い。
咄嗟に私は走ろうとする。
すると
「だーめ、逃がさないよ。
僕にそんな態度取るなんて……お仕置が必要かな?」男性は私をひょいっと抱き上げスタスタと歩いていく。
「だっ、誰か!助けてください!!!!!!」
必死に叫ぶ。しかしここら辺は田舎であり、家の家の間が広い。
私はされるがままになってしまった……。
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