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第5話 本質
「う、う~~ん」
良い匂いがする。
どうやら俺は眠ってしまったらしい。
そしてなにかを抱きしめている。
「はっ!」
ふと見るとイルゼさんの顔が、俺の顔の近くにあった。
「わっ、どうなっているんだ?」
「お、お食事の用意ができたので起こそうとしたのですが、ね、寝ぼけられていたようで私を…」
「す、すいません」
俺は抱きしめていた手を離した。
「さ、さあ、食事に致しましょう」
俺は身を起こしベッドから降りた。
テーブルに座わり、出された食事を食べる。
うん、美味しい。
野菜や肉が入ったスープだ。
香辛料が効いて美味しい。
「お味はいかがでしょうか?」
「香辛料が効いて、とても美味しいです」
「それは良かった。急ごしらえでお作りしたので、お味はどうかと思ったのですが」
「もしかしたらイルゼさんが、作ってくれたのでしょうか?」
「えぇ、そうです。決まった時間以外は、料理人は作ってくれなくて」
「それはすみませんでした。でもこんなに美味しい料理を作れるなら、いい奥さんになりますね」
「えっ、まあ。奥さんて…、あっ、いやっ」
イルゼさんは両手を頬に当て、顔を真っ赤にしている。
この世界ではそこまでオープンではないのかもしれない。
発言には気を付けないと。
「香辛料が効いていますが、簡単に手に入るのでしょうか?」
「はい、州の都市自体で採れるものでしたら…」
聞くと俺がいるジリヤ国は内陸にあり、四方を山や隣国に囲まれている。
王都を国の中心に作り、それを守るかのように周りに東西南北に6つの州を、更に王都寄りの東西に2つの州を置き公爵家を配置し外敵に備えているとか。
魔物が徘徊しているのは都市間の森で、今のところ城壁に囲まれた都市を襲うことは無いそうだ。
だが街道にも魔物が現れるようになり、作物のを収穫しても都市に運ぶこともままならなくなってきているという。
このままでは食べるものが無くなるという事だ。
だから聖女召喚なんだ。
「すみません。これは贅沢な食事なのですね」
「いいえ、ビッチェ王女様よりタケシ様には、できる限りのことをするように言われておりますから」
「では、この国について教えてください」
「分かりました。この国は…」
このジリヤ国の王はクリストフ ・ディ・サバイア。
そして妻は第一王妃グリニス。
息子の第一王子イクセル ・ディ・サバイア王子。
妻のポーリーン王女。
現王は50代前半の男盛り。
その為なのかまだ王位を王子に継がせる話はでていない。
王子夫妻の子供は第一王子ヘルムート王子は17歳。
第一王女ビッチェ・ディ・サバイアは15歳。
そして王にはグリニス王妃の他に2人の王妃がいる。
その間に王子が2人、王女が3人生まれている。
「どうしてビッチェ王女様は聖女召喚に、関わっているのでしょうか?」
「そ、それは政治的な事だと思います」
「と、言うと」
「私も詳しいことは分かりませんが、王様には王妃グリニス様の他に女王様が2人おいでです。そのお子様には王子様が2人おいでになりまして」
「次の王位継承権を争っていると」
「はい、そうだと思います。各王子ごとに派閥があり、父であるイクセル王子様の株を少しでも上げられればと。成功するか分からない、召喚儀式の責任者に進んで名乗り出たのです」
「では思ったよりうまく事が、運ばないかもしれませんね」
「どう言うことでしょうか?」
「だってそうでしょう。権力争いがあっても国あっての自分達と分かっているならいいのですが、権力第一主義だと国は滅びることは無いと過信し、国の事や魔物のことなど二の次になるからです」
「そんなことは無いと思いますが」
「国の上に立つ人がどれだけ世間を知っているのかで、やり方は大きく変わると思います」
「タケシ様はどこから、その様な知識を…」
「あっ、それは(ファンタジーの)本からです。俺の居た世界では本がたくさんあり、そこから学ぶことが多いのです」
「まあ、そうなのですね。この国では本は貴重で字を読める人も少なくて」
それから俺達は楽しい時間を過ごした。
「ではタケシ様また参ります」
「話し相手になって頂きありがとうございました。あぁ、そうだ。イルゼさん」
「なんでしょうか?」
「たくさん物が入るバッグてありますか?」
「マジック・バッグでしょうか?そうですね、ありますが古代遺跡からの出土品になるので、とても高いと思います」
「どのくらいでしょうか?」
「よく存じませんが馬車1台分入るマジック・バッグで、一生遊んで暮らせるそうです」
「そんなにするの?」
「どうしてそんなことを聞かれるのでしょうか?」
「いえ、俺の居た世界の本の話ではマジック・バッグは定番でしたから、簡単に手に入るなら便利だからほしいなと思いまして」
「まあ、そんなに有名だったとは。でも無理だと思います。肝心のマジック・バッグが、売りに出ることはまずありません。マジック・バッグ1つ持っているだけで、代わりに物を運んだりして一生遊んで暮らせますからね」
「それは残念です」
そしてイルゼさんは部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トン、トン!
「お入りなさい」
「失礼いたします」
「どうしました、イルゼ」
「はい、ビッチェ様。実はタケシ様の事ですが…」
「あぁ、彼の事ね」
ビッチェ様は興味なさそうに答える。
「タケシ様はこの世界の事を知るために、お付きの人を付けてほしいそうです」
「そうね、でも彼に割く人手はないわ」
「ですがタケシ様は異世界人だけあって、特別な何かをお持ちです」
「あははは!彼は凡人よ。ねえオバダリア様」
「あぁ、そうだ。ビッチ。俺の鑑定に間違いはない」
「まあ、そのあだ名で呼んでいいのは、オバダリア様だけですよ」
そこには二人掛けの座椅子に座ったオバダリアの膝の上に乗り、恍惚とした顔を浮かべるビッチェ王女がいた。
オバダリアの左手はドレスの胸の中に、右手はスカートの中を弄っていた。
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