第6話 思惑

1/1
前へ
/54ページ
次へ

第6話 思惑

 第一王妃グリニスの息子で父、第一王子イクセルは36歳、凡人だった。  ボンボン育ちで世間知らず。  競争心がなく人が良かった。  私は第一王子の娘、第一王女ビッチェ・ディ・サバイア。  そして息子の兄、第一王子ヘルムート王子は17歳。  サバイア王の第二王妃、リーゼロッテの息子コンラードは34歳。  母リーゼロッテの英才教育を、幼い頃から受け内政や外交に才能があった。  他に王女が2人いる。  サバイア王の第三王妃、ミラベルの息子ヴァルターは32歳。  筋骨隆々で幼少から文学は早々に諦め、剣を磨き魔物討伐で武功を挙げた。  他に王女が1人いる。  第二、第三王子がここまで頑張れたのは生き残るため。  母の違う王子が3人いる。  そしてその内の誰かが次の王になれば残った王子は、親子もろ共消されてしまうかもしれない。  だから今でも毒殺や暗殺に気を使いながら日々を生きている。  次の王になり権力を手に入れるために。  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  ジリヤ国は王都の周りを取り囲むように配置されている8つの州がある。  東西南北に6つの州が、更に王都寄りの東西に2つの州の公爵家がある。  特に王都寄りの東西にある、2つの州の公爵家は他の公爵家に比べると領土も広く豊かだった。  その中も他の7公爵家に比べ、力があるのが王都東のファイネン領だ。  ファイネン領は何世代か前の領主が、街道を荒らすワイバーン2匹を討伐したと言われている。  そのワイバーンは卵を2個守っており、持ち帰った卵が2個孵りオス、メス2匹のワイバーンが生まれた。  そして初めて見た領主を親だと思い2匹は懐いた。  それから2匹はたくさん卵を産み、優秀な騎士を側に付け子供が孵る度に『刷り込み』を行った。  こうして竜騎士が生まれた。  オバダリア・シュレーダー・ファイネン侯爵。  当主を継げば公爵になる男。  銀色の髪を短く刈り、やややせ気味の神経質そうな顔。  8つの州の中で一番権力を持ち、次のファイネン領当主。  父、第一王子イクセルには王都に、昔から仕えている名前ばかりの貴族しか支援者が居ない。  だがこのまま叔父のコンラード王子や、ヴァルター王子のどちらかが次の王になれば私たち家族はいずれ消されてしまうかもしれない。  だから半年前、聖女召喚の話が出た時に私は真っ先に話に乗ったわ。  駄目で元々。  でもこれが成功すれば、評価が上がり私の支援者が増える。  結果、それは父イクセルの力になる。  そして丁度、王都に来ていたオバダリア様を巻き込んだ。  オバダリア様は数少ない鑑定眼の持ち主。  その子種だけでも欲しがる貴族は多い。  だって鑑定能力は貴重なスキル。  うまくその血を取り込むことができれば、その家族は一生生活に困らない。  しかもオバダリア様は30歳のくせに独身。  15~16歳で結婚をする貴族の中では婚期が遅い。  人間性に問題があるとか、噂になっていたわ。  そういう私も15歳。  でも力を持たない父の娘など誰も欲しがらない。  名前だけの王女様。  そして次の王が誰に傾くのか。  それを見極めてから娘がいる王子に、取り込もうと他の貴族はしているのだわ。  聖女召喚なんて成功するかも分からない。  今まで誰も行ったことが無いから。  だから後ろ盾がほしかった。  揺るがない力を。  そしてお酒の席でオバダリア様を誘った。  私は年齢の割りには幼児体型だ。  だから幻覚作用のある薬をお酒に入れて飲ませた。  そうでもしないとこの男は、私にはなびかない。  いくら鑑定眼を持っていても、常に発動しているわではないわ。  それに鑑定するにはその物をじっと、見続けないといけないそうなの。  人相手だと、相手に不審がられるそうよ。  だから私が飲んでいる飲み物と同じものを飲むのに、鑑定するなんてしなかった。  そしてその後にこの男が、結婚しなかった理由がわかった。  この男は自分より『高貴な相手を汚すことが喜び』に感じる男だった。  だから結婚しなかった。  いいえ、出来なかった。  なぜなら公爵より上の貴族は王家だったから。  それからはうまく行ったわ。  私は彼が望んだ王家の血を引く王女だからよ。  初めてだったけれど、それに見合う後ろ盾を手に入れた。  ファイネン領の次期当主がビッチェ王女と仲が良い、とすぐに噂になった。  男女の関係になったことは内密だけど。  これで派閥の貴族の牽制になる。  ただこの男が私の事をビッチェではなく、『ビッチ』と呼ぶことがある。  愛称だから心地良いはずだけど、とても不快に感じるのはなぜだろう?  そして1ヵ月前から王都のシャルエル教神殿で巫女に、聖女召喚の儀式用の魔力を魔石に溜めてもらった。  その時に出会ったのがロターリ司祭だった。  私は一目でピンと来たわ。  この男は私みたいな幼児体型が好きな男だって。  そして思った通りだった。  しかもこの男は言葉で罵倒され、虐められるのが大好きだった。  それからロターリ司祭は私の言いなりだった。  1ヵ月溜めた魔力を使い、無事に聖女召喚ができた。  聖女と一緒に男が付いてきたから『勇者』かと、喜んだけどオマケだった。  オマケには興味がないわ。  いえ、待ってオマケでも役には立つ。  聖女には付き人を付けているけど、何を考えているかは分からない。  男に付き人か。  同郷らしいし他に能力もないから、聖女の話相手をさせるしか役に立たない。  そこでどんなことを話すかも、分からないわね。  それなら信用できる人を男の側にも置いたほうが良いわ。 「イルゼ、あなたは今からタケシ様の付き人よ」
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加