第6章 偽装彼氏の契約解除

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 椎葉の両親と対面したとき、母親は椎葉のようにやさしく目を細めて笑いかけてくれ、父親のほうも快く美優を迎え入れてくれたが、それでも緊張が解けることはなかった。 「コーヒー淹れるよ。その前にコートを脱いで」 「はい」  椎葉がキッチンに入ると、美優はコートを脱ぎ、ハンガーラックにかけた。 「それにしても椎葉さんはひどいです!」  美優はコーヒーの準備をしている椎葉に詰め寄った。 「俺、なにかした?」 「そうやってとぼけるの、やめてください。椎葉さんの嘘にまんまと騙されました」 「なんのことかな? ほんとにわかんないんだけど」  美優に隠しごとはないはずだと、椎葉は首を傾げた。 「お母さまのことですよ。前に椎葉さんのお母さまのご実家は普通の公務員の家だと言ってましたけど、ぜんぜん普通じゃないじゃないですか!」  椎葉の母方の祖父は、公務員は公務員でも国家公務員の高級官僚で、まるで次元が違う。家系も先祖代々受け継がれてきた由緒正しい家柄だったのだ。 「わたし、ずっと震えが止まりませんでした」 「美優は緊張しすぎ。これから家族になるんだよ。もっと気楽に考えてよ」 「そんなこと言われても急には無理ですよ」  もしかして思っていたよりも大変な世界に飛び込んでしまったのかもしれない。会社のこと、家のしきたりなど覚えなくてはならないことが山ほどあると椎葉の母親が言っていた。  それでも逃げずに前に進んでいこうと思えるのは椎葉がそばにいてくれるからだ。
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