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妄走
これは、己との勝負。
私だけに与えられる 栄光と誇り。
神に与えられし使命に、他の者たちは
抗い、奮闘するが、序盤の必然的怠慢により
その姿を消して行くことになる。
ターボアイテムの取得や地形変化、天候の風向きなどによる利点など、運の要素に頼るような輩は、 私にとってはチート勢に他ならない。
結局は、初めが肝心なのだ。精神を研ぎ澄まし、反射的にボタンを押すタイミング。これしかない。
我慢の限界点ギリギリを制した者にこそ、
頂点に立つ記録を残す権利が授与されるのだから。
今、まさに、私の存在だけが観衆たちの目を引いてるに違いない。しかし、私の見つめる先は、ただ1点の曇りなきエンドライン。
おっと、失礼。君たちも同じ出発点に立っていたんだね。
先程の無礼を乞うかのように、周りの好敵手たちに軽く会釈をし、余裕を見せる私。
私は深呼吸をし、顔をパーンとはたき、気合いを入れ、体勢を再び整える。
失敗はもう許されはしないが、試行に繋げ、緊張を振りほどくことに成功した私には 既に、恐れるものなど何も無いのだから。
勝利を悟った者だけに囁かれる、祝砲の
瞬間を私は今か今かと待ち望む。
ただひとつの音だけを聞き取り、その他の音は置き去りにするんだ。
全集中。耳介の呼吸…腕に脚、そして、全身に力が入っていく。
ドクン…ドクン…。
こ、これは、私の心臓の音。凄い高鳴りだ。血液が身体中に漲り、我が力の解放を待ちわびている…。
パンッ…。
今こそ、私は走り出す…。
「え〜残念ながら、エブリスタート選手 2回目のフライングにより、失格とさせていただきます。」
私の脳内の妄想が破裂した音だったのであろうか。
悔し涙も走り出す…。
完
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