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その気配を察知したのか、相手は慌てたように言い募る。
「ね、ほら、話だけでも。どうせいま暇でしょう、君」
思わず呟いた。
「失礼な」
「あ、やっと返事した。声掠れてるけど大丈夫かい?」
僕がいま暇なのは事実だが、それはやるべきたったひとつのことを先延ばしにしているからだ。
呑気そうな問いかけを無視して、薄暗いなか、手を伸ばせば届くところにあるビニール紐と踏み台をぼんやり見つめた。
「おーい。聞こえてるかい」
「何も」
「お、聞こえてるね。晩餐は済んだかい」
子守唄のように心地よい低音を聞きながら目を閉じる。
「用件は?」
人と話すのは久しぶりで、懐かしさを覚えた。ここで通話を切って終わりにしても良かったが、気まぐれに相手をすることにした。
「サンタといえばプレゼント。まあ、一言でいえば、欲しいものはありませんかという」
「ない」
「……返事が早いし、取り付く島もないね」
「じゃあ、これで」
「いや、ちょっと待ってって。本当に欲しいものはないのかい」
「諭吉」
いまとなっては金など欲しいと思わないが、少し前まで喉から手が出るほど欲しかった。
「なんだ、あるじゃないか。さっきはないっていったのに。現金な子だな、金だけに。なんつって」
「さようなら」
「待った待った。他には何かないの?」
「じゃあ彼女」
「君、適当に答えてるね? せっかくサンタからプレゼントをもらうチャンスなんだから、ちゃんと欲しいものを教えておくれよ。何かこう、夢のあるやつ」
「夢はない。昔から」
電話の向こうに沈黙が広がった。
目を開ける。目の前の光景は依然、変わらない。
やっぱりもう終わりにしよう、と思った。
けれど、通話終了を押そうとしたとき、ふと意地悪な気持ちになった。
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