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「強いていえば」
「お?」
「新作のゲームソフト。有名なタイトルなら何でもいい」
「年相応じゃないか。いいね」
「限定生産のを10個、いや、20個は欲しいな」
「え?」
「貰ったら全部転売して、金にする。それで小金持ちになる。夢があるだろ」
最初は何かの勧誘かとも思っていたが、話すうち、相手は何故か下心なしに本気で僕が望む物を知りたがっているのだと感じた。それはこちらの内面に踏み込もうとしてきたかつての友人や家族を思い出させた。心の古傷がうずく気がした。
それでつい、挑発に出た。こちらの性根がいかに腐っているか示して、相手を落胆させてやろうと思ったのだ。かつて周囲にやったのと同じように。
向こうが閉口して会話は終わるだろう、と思った。
相手の反応は、しかし、予想もしないものだった。
「はっはっは。そりゃあいい!」
思いがけない反応をされて、僕は言葉を失った。
相手はお構いなしに笑い続け、こういった。
「転売屋になろうとするほどの意欲が君にあるなら、それはそれでいいことだ。でも君は転売なんかしないだろう。実際ゲームソフトを手に入れたとして、その選択をとることはないはずだ」
それから急に真面目な声音になった。
「転売屋は、使う金が欲しくてものを転売するのだからね。金があっても使う機会がなければ意味がない。つまり、彼らは自分に未来があると信じている」
君は違うだろう、と言外にいわれ、何の言葉も返せない。自分で感じていたことを改めて他人にいわれるのは、想像以上に突き刺さるものがあった。
黙りこんだ僕に、相手はなおも語りかける。
「君は律儀にも知らない番号からの電話に出て、こうして私と話している。それは立派なことだ。君は、それだけで偉いんだ。ーーー君は今日この日を最後と決めていたかもしれないが、私はできれば、来年の今日もこうして君と話したい」
顔は見えないのに、相手の穏やかな表情が目に浮かぶようだった。
「無欲な君に贈り物をしよう」
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