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その声が聞こえるやいなや、部屋の電気がぱっと点いた。部屋が再び光に包まれる。
僕は眩しさに目を瞬かせた。突然ではあったが、これが「贈り物」なのだと直感した。
今度は驚きのあまり何も言えない僕に、電話の向こうの男は言った。
「暗い場所で明るい画面を見るのは良くない。ああ、ちなみにこの電気代は請求されないから大丈夫だ。ゲームソフトは……そうだな、来年あげることにしよう」
僕はようやくのことで口を開いた。
「あなたは何者なんですか」
「だから言ったじゃないか」
電話の向こうで楽しそうに笑う声がした。
「私はサンタだよ」
「そういうのはいいです」
「本当だよ。ーーー光が君の人生を照らしますように。いまの君の部屋のように、なんつって」
そういう冗談はいいです、という前に電話が切れた。
電話が切れたあと、僕はひとり放心状態だった。
しばらくしてから、僕はビニール紐と踏み台をのろのろと片付けた。
日雇いの仕事はしばらく入ってこない。光熱費どころか家賃もぎりぎりで支払えないかもしれない。来年はどうなるだろう。路頭に迷い、枯れ草を食べてしのぐ生活になる可能性だってある。
それでも、僕は不思議な確信を抱いていた。「サンタ」を名乗った先程の男は、僕がどんな状態であれ、きっと来年も連絡をとってくる。もしかすると再来年も。
僕は再び布団に転がり、部屋を眺め回す。
電気が復活し、明るく照らし出された部屋は、改めて見ると狭苦しく薄汚れている。
けれど、これでいいのだ。
久々に増えた通話履歴をもう一度確認したくなってスマホを手に取ったとき、時刻が0時ちょうどを示し、25日になった。
もう少しだけ。
来年のこの日までは生きてみよう、と僕は思った。
【終】
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