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東京某所、安アパート、六畳間。
もろい砦と化していた部屋の電気が、唐突に切れた。これで、明かりと呼べるものはスマホの画面だけになった。
電気代を滞納したつけが回ってきたのか、それとも雪による停電か。
わからないし、興味もなかった。電気が復活しそうにないということは自明だ。
部屋が寒くなることはない。数日前から暖房器具が壊れて使えなくなりそのまま放置しているからだ。元々冷たい室内の温度は変わらない。
いまの僕はただ惰性で生きている。先日決めた計画を実行する踏ん切りがつかずに、布団に転がりながらスマホをいじっているところだった。
煌々と光る画面が目に痛くなり、スマホいじりをやめようか、とぼんやり考える。
そのときだった。
突然、電話がかかってきた。
知らない番号からだった。
当たり前だ。知っている人はーーー家族も友人もーーーもう電話をかけてくることはないのだから。電話がくること自体、僕にとっては、停電以上に青天の霹靂といえた。
無視すれば良かったが、何となく通話ボタンを押す。
「もしもし」
聞こえてきたのは、年齢のわからないバリトンだった。
返事をせずにいると、相手はもう一度呼びかけてきた。
「もしもし。聞こえていますか。☒☒☒くんですよね」
馴れ馴れしいな、なんで自分の名前を知っているんだ、せめてもの矜持で金は誰にも借りてないから消費者金融ということはないはずだが、などと考えながら、なおも返事をせずにいると、焦れたように相手はいった。
「私はサンタです。ほら、サンタクロースのサンタ。今日から明日にかけて大活躍のサンタです。怪しいと思うかもしれないけど、電話を切らずに話だけでも聞いてもらって」
電話を切ろう、と思った。
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