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2  小山田宗春が目指した総合商社播商(ばんしょう)株式会社は創立七十周年を迎えた老舗(しにせ)企業でありながらマーケットを牽引する商品を次々と開発することでつとに知られていた。  社員には入社年次に関わらず多彩なチャンスが与えられ、入社数年で大プロジェクトのチーフに抜擢されることもある。  毎年数千人もの希望者が殺到するが、採用は百名足らずという狭き門である。  宗春は高校生の頃、たまたまテレビでこの会社が特集されているのを家族で観た。カメラは商品開発会議の様子に密着し、迫力ある討論の画面を映し出していた。 「ここに入れたらすごいわよ。お母さんも鼻が高いわ」  母親は期待を込めた目で宗春を見つめた。 「今から決めることもないだろう。自分が活かせる職場がいいんじゃないか」  父親は凡庸なことしか言わない。さすがバブル世代、三流大でもいくつも内定がとれた世代は言うことが違う。偏差値と学費が高いことで有名な高校に在校していた宗春は内心冷笑した。  ストレートで国立名門大学へ進んだ宗春は、一年の頃から就職を視野に入れて企業研究を行い、三年の春にはインターンシップを受けて強力なコネクションを作った。  それがリクルーターの山本幸四郎である。リクルーターは人事部以外の若手社員がなる。山本は同じ大学の三つ上の学年だった。学部も違っていたので顔は知らなかったが、穏やかで人が良さそうな雰囲気の人だった。  
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