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 僕たちの関係を知らない他人が見たら恋人同士に見えるのかも知れない。頭にそんなことがよぎる。  人目のない図書館で先生と二人。  いや……よく考えてみたら年頃の可愛い女性と、手を伸ばせば抱きしめられる程の近い距離。上目遣いで見上げる顔の下にわずかにのぞく水色の下着と、白く柔らかそうな胸の谷間……けしからん、けしからんぞ。  脳の処理速度が完全にキャパオーバーになってしまう。 「けしからん……」  思わず言葉になってしまった。 「はぁ?」  怪げんそうな顔でいずみちゃんが見上げる。 「いや……その……いずみちゃんがけしからんとかじゃなくて……チラチラ見えるおっぱいがけしからんと言うか……」 「ちょっ!?」  驚いたような短い悲鳴を上げると自分の胸を確認する。いずみちゃんの顔がみるみる赤くなるのがわかる。  そんな姿を見て思わず笑い声が出た。つられてなのかいずみちゃんもうつむいたまま笑い出した。  静かにしろと言わんばかりの大きなせき払いが奥の席の方から聞こえた。 「怒られちゃうね。ここじゃ他の人に迷惑をかけてしまいそうだから出ましょうか」  笑いながらいずみちゃんが僕の手をつかみロビーの方へ向かった。 「ちょっといずみちゃん!この本、戻さなきゃ」 「借りるんじゃないの?」 「俺、図書館で借りたこともないし借り方もわかんないから……」 「じゃぁ貸して」  僕の持っていた本を取ると、いずみちゃんはカウンターで貸し出しの手続きを始めた。カウンターの機械で本人カードと本に貼られたタグを読み取らせると、慣れた手つきで借りた本をバッグに入れた。  髪を耳にかけるしぐさの奥に見える横顔が、僕の知る彼女とは全くの別人のようだ。違う世界のものを見ている感覚と同時に、先生のことを何も知らない自分が少しだけ恥ずかしく思えた。  どこに向かっているのか見当もつかず、ただ黙っていずみちゃんの少し後ろをついて歩いている。接点は教師と生徒。それ以上でもそれ以下でもないはずなのに、今こうしてプライベートで一緒に歩いていることが妙に不思議だった。 「可愛いな……」 「ん?何か言った?」  一瞬われに返って恥ずかしくなった。思わずこぼれ落ちた言葉はどうやらいずみちゃんの耳には届いていなかったことに安心した。 「いや何でもない」  胸が一度大きな鼓動を打つと、その鼓動は衝撃波の様に体中の隅々にまで波及し、指先の毛細血管から髪の先までが震えたように感じる。 「暑いね……とりあえずどっか入る?」
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