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いずみちゃんの部屋は瀟洒な雰囲気で、自分の持つイメージとはあまりにもかけ離れていた。煉瓦を積んだ様な壁には多くの観葉植物といくつもの絵画が飾られていた。その雰囲気は部屋と言うよりどこかのお洒落なカフェを想像させる。
「何て言うか……いずみちゃんすごくね?」
「どう言うこと?」
「いや、学校のイメージとは全く違うじゃん。全然お洒落で可愛いし、学校でもそうしてた方が人気出るって」
「あーー 無理かな」
笑いながらいずみちゃんが続ける。
「今、冷たいのないけど珈琲でいいかな?」
慣れた手つきでケトルを火にかけた。
二人きりの静かな部屋にケトルの沸く音と、階下から通りを行き交う車の音が聞こえてくる。
窓際には大きな観葉植物が置いてあり、艶々とした葉がその存在感を主張していた。植物だけではなく壁に飾られた絵までもが、まるで僕を子供扱いしている様だった。
エアコンの冷気と珈琲の香りが、リビングで座って待っている僕のところへ運ばれてきた。二人分のマグカップをテーブルの上に並べると、いずみちゃんはバッグの中から図書館で借りた本を取り出した。
「絵画に興味があったんだ? 学校では全然そんなそぶり見せないからちょっと驚いちゃった」
白く細い指が本のページを捲っていく。改めて見ると本の装丁も、絵画に使われる額縁の様な美しいデザインだった。
「いや……興味があるとかじゃなくて……そもそも図書館には暇つぶしで入ったと言うか……」
顔が熱く紅潮していくのが分かる。エアコンがもう少し強くならないか願い、顔を横に背けながら続けた。
「仕方なく最初にとった哲学の本なんか、全く意味わかんなかったし……絵画の本なら絵を見るだけかなと……」
「なるほどね。それと下で目があった時、私って気づかなかったでしょ?」
いずみちゃんのからかう様な笑顔は初めて見た気がする。学校ではこんな表情を見たことがなかった。
「気づくも気づかないも、いずみちゃん全くの別人じゃん! 絶対今の方がいいのに」
笑顔の奥の瞳が何か言いたげにこちらを見ていた。
「そうね、最初は私も服装や話し方に気をつけてたんだよね……でもさ、やっかみって言うのかな? 英語の重松先生分かるよね、あのババア結構ネチネチ言うんだよね。服装や髪形、化粧なんかしてたらそれこそ手がつけられないくらいにね。それに教頭のハゲがセクハラまがいなことをするのに嫌気がさして今の感じにしちゃったの……これ内緒ね」
笑いながらさらりと毒づく。
「うわっ口悪……」
僕がイメージしていたはるか斜め上をいく、担任の容姿と言動に吹き出して笑ってしまった。それを見た彼女はまるで不敵な笑みでも浮かべたかのような表情で続ける。
「しおらしいとでも思ってた?」
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